NTTは5月13日に公表した新・中期経営戦略で,PSTNを別の網にマイグレーションするうえで検討すべきテーマを示した。具体的には,(1)交換機の運用限界,(2)メタル回線のNGN収容の経済性,(3)PSTNの存在を前提とした制度の議論,(4)政府や自治体によるブロードバンド・インフラ敷設の状況──である(図1)。今後3年間でこれら4要素を踏まえた検討結果をまとめるとしている。
ここで選択肢の一つに挙がった「メタル回線のままPSTNユーザーをNGNに収容替えする」という移行計画は,英BTやKDDIが既に着手している移行計画と同様の手法である。
PSTNと同じ機能やサービスをIP技術で実現し,ユーザー側の機器や利用形態を変更することなくネットワークの移行を実現する。しかし同時に,加入電話網が長い期間をかけて広げてきた多様なサービスや機能を,移行先でもすべてカバーしなければならないという高いハードルを課されることになる。
旧式通信機器につまずいたKDDI
当初,「2007年度末までに電話交換機をすべて撤廃する」と宣言していたKDDIは,そのハードルにつまずいた。「数少ないケースだが,旧式のモデム端末がIP網上で正常に通信できない事象に対応するため,目標としていた2007年度末までの完全撤廃を見送った」(KDDIの小野寺正社長兼会長)。2008年度は対応策のメドを付け,フルIP化に向けた作業を再開する予定だ。新たな期限は設定せず,「ユーザーに迷惑をかけないよう,慎重に置き換えていく」としている。
PSTNを完全にIP網に置き換える「21CN」計画で世界の注目を集めたBTも,2008年に当初の計画を見直した。「2008年中に約1000万ユーザーを強制的にNGNに移行する」としていた計画は現在,「移行はユーザーの希望ベースで実施する」と,ソフトランディング路線に変更されている(図2)。
これまでIP網への移行計画を大々的に公表してこなかったソフトバンク・グループも,内部では着々とIP網への統合を進めている。2008年度中にソフトバンクテレコムの直収電話サービス「おとくライン」の一部の中継区間に,このコアIP網を採用していく計画だ。
こうした中で,NTTだけはPSTNの運用限界が近いことを認めているにもかかわらず,移行パスを2010年までは提示しない,という姿勢を貫く。IP化で先行するKDDIやBTの例を見ても,PSTNをIP網へ移行するには,ユーザーへの周知を含めた相応の準備期間が必要となる。できるだけ早い段階で,移行について社会的なコンセンサスを形成することが望ましいはずだ。