写真●廣瀬 禎彦氏 コロムビアミュージックエンタテインメント 代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)
写真●廣瀬 禎彦氏 コロムビアミュージックエンタテインメント 代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)
(写真:清水 盟貴)

 当社が扱っている音楽は、情報そのものだ。だからこそ、情報システムの活用は、経営改革を進めたり、マーケティングやコンテンツ配信の仕組みを強化したりするために欠かせない。私は日本IBM出身ということもあり、ITベンダーとの付き合いも深い。

 ITベンダーの担当者と接する機会は多いが、違和感を覚えることが増えた。「必ずしも顧客の視点で最適なソリューションを提案しようとしていない」と思ってしまうのだ。

 当社では、1980年代に導入した日本IBMのオフコン(AS/400)ベースの業務システムがまだ動いている。そろそろ再構築しようかと考え、あるITベンダーに提案してもらった時の話だ。

 このITベンダーの担当者は、従来のシステムの機能を、新しいシステムにそのまま移行する案を出してきた。間違いというわけではない。

 でも、競争力を高めるために業務プロセスやアプリケーションを見直そうという発想がなかったことに物足りなさを感じたものだ。

 ITベンダーに対して違和感を感じるケースはほかにもある。ITベンダーの営業担当者の多くは、製品やサービスについては、個別に詳しく説明してくれる。ところが、全体最適の発想に欠けている。手持ちのメニューの枠内に収めて、製品やサービスを売りつけようとする傾向も強い。これは特にITコンサルティング会社に顕著だ。

 自社の手掛ける製品やサービスだけにとらわれず、ユーザー企業にとって最適な製品やサービスの組み合わせ方や導入方法、具体的な効果について語ってほしい。

 結局、ITベンダーやITコンサルティング会社は、顧客の業務や組織の問題を解決することよりも、「売ること」を意識しているような気がしてならない。短期的に売り上げは上がるかもしれない。だが、長期的に顧客と良い関係を築くことはできない。短期的な商売だけにしか興味のない相手に相談しようというユーザー企業は、多くないだろう。

 一昔前のITベンダーは、ユーザー企業の業務をシステムに落とし込むことが仕事だった。その本質は、ユーザー企業の経営にどのような情報システムが必要なのか親身になって耳を傾け、情報化のプランを共同で作り上げ、システム成果物を納めること。時代が変化しても、それは変わらない。

 現状は違う。顧客が期待する仕事の表層的な部分だけしか、支援していないように見える。

 提案は個別最適解にとどまり、ユーザーの言われた通りの範囲内でシステムを作ったり、ネットワークを組んだりすることに躍起になっているケースが少なくない。時には、新たな技術を使って、システムの在り方を抜本的に見直すといった挑戦的な提案があってもいいはずだ。

 現状のままではITベンダーとユーザー企業の距離が広がるばかりだ。こうした状況を少しでも改善してもらいたい。

 私は、ITベンダーの営業担当者が、ユーザー企業の経営層に会う機会を増やすべきだと思う。経営層と対話することで、経営が求める情報化ニーズを知り、経営に関するスキルを高めることもできる。

 ITベンダーの営業担当者は、ユーザー企業のシステム担当者に会うことは多いと思うが、これでは技術ありきで物事を考えてしまいがち。システム担当者や利用部門の担当者に加え、経営層に会う。そうしなければ、ITによる業務革新の提案などできないだろう。(談)