企業内システムの開発では,現場の代表によるプロジェクト・チームを作ることもあれば,情報システム部門が主導するケースもある。こうした場合にどんなシステムにすべきかは,プロジェクト・リーダーなり責任部署なりが決定すべきだ。さもないと議論ばかり続いて,実行計画が決まらない。声の大きさや役職の高さで自己主張を許していたら,「船頭多くして船,山に登る」のたとえ通り,まともなシステムはできない。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 電子関連機器製造会社のL社では,ここ数年事業が極めて好調で,売り上げが急激に伸びた。ところがあまりにも急激な成長のために,業務改善や標準化はもちろんのこと,システム化が追い付かない。このため自動化したいにもかかわらず,手作業で行っている業務がいくつかある。

 最近は,業務が追い付かないためにクレームになるケースも目立ってきた。経営陣は好調な業績を背景に株式公開を目指している。それには,社内設備の改良にもっと投資すべきだということが経営会議で決まり,システム面の整備に全社を挙げて取り組むことになった。

 業務の急増に社内の要員体制も追い付かない。とりわけスタッフ部門が弱いことから,中途採用によって管理や人事機能の強化を図った。情報システムを担当する専門組織はおろか要員もいないことを補う目的で,コンピュータ・ベンダーやシステム・インテグレータなどで実務経験を積んだ外部スタッフを中途採用することにした。

 全社システム構築の責任者に任命されたのは,このプロジェクトを担当する目的で中途採用された総合企画部のK課長であった。K課長は,社内に情報システムの専門家がいないこと,強力なリーダーシップがないことを踏まえて,外部の情報システム・コンサルタントの利用を経営陣に進言した。早急なシステム化が必要不可欠だという認識は経営陣にも共通しており,その意見に賛成した。

 K課長とコンサルタントは,全社システムを構築するためには,まず各部門の意識を合わせることが必要だという意見で一致した。しかしそれを推進する組織自体もないに等しいことから,事務局で作成した基本計画について経営陣の承認を得て,各部署に説明することにした。

 K課長は,コンサルタントと一緒に基本計画の作成に着手した。基本計画の作成には,現状業務の分析・評価が必要なので,製造現場,物流,経理,営業の責任者に対するインタビューを設定した。