Webシステムの利用によって顕在化する問題点がある。手作業や個別システムでの対応を行っているときは,多少の例外や緊急の案件もその場で臨機応変に処理できた。しかし情報がリアルタイムに直結するようになると,途中で恣意的な操作はできないし,しないことが前提になる。もちろん反対はあるだろうが,社内の意識統一を待って移行しようなどと考えていては,システムが陳腐化して用を成さないものになってしまう。

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 化学製造会社のO社は,取引先とのやりとりをWeb上で処理するシステムの導入を計画した。受発注システムと製品在庫情報を連動し,原材料の調達時間を短縮して在庫を減らすのが狙いだ。ところがいざ検討をしてみると,Webシステムへの切り替えは予想以上にたいへんなことがわかった。そこで情報システム部門は,導入法を探るために各部署と協議を始めた。

 これまで取引先とのやりとりはEDI(電子データ交換)や,ファックスなどさまざまな方式で行っていた。とりわけ小規模の取引先は情報化が進んでいないこともあって,EDIといいながらも実際の入力はO社側で行うような変則的なケースもあった。

 情報システム部門は,「Webシステムを構築するからには,社外まで含めて業務の仕組みを変えないと意味がない」,「取引先に対してもパソコンを導入してもらう方向で考えてほしい」と経営陣に提案した。これに対して業務部門からは,「小さな取引先の中にはパソコンの導入が難しいところもある。取引をやめるわけにもいかないので,少しずつ時間をかけてWebシステムに移行したい」という要望が出された。

 ところが購買部門や物流部門は,「Webシステムを導入にするからには,原材料の入庫・在庫情報がリアルタイムに把握できないと意味がない。電話による問い合わせ対応もなくしたいので,取引情報はすべてWebで入力してほしい」と強く求めてきた。さらに事業部門の営業からは,「顧客によっては後からの受注でも先に出荷しなければならない場合もある。Webシステムで在庫の引き当てが早い者勝ちになると融通がきかなくなり,商売に支障を来す。優良顧客には特別枠を設けることを考えてほしい」といった意見も出てけんけんごうごうの議論になった。

 議論はいつまでたっても平行線のままだった。これではシステム開発に着手できないと困った情報システム部門は妥協案をひねり出した。製品群別にWebシステム化の順番を決め,徐々に完成させるという内容だ。全取引先がWebシステム化できると手を上げた部門から導入を始める。その成果を他部門にも見せて,Webシステム化に対する意識を盛り上げようと考えた。