筆者が社会人になったこととは異なり,最近ではすっかり電子メールがコミュニケーションの中心になった。先日,友人が海外での電子メールに関するエピソードを教えてくれた。ある国際会議の議場での出来事である。

 数百人を集めた会議場の演題から司会者が「今,電子メールをチェックしていた人」と問いかけたところ,なんと会場の半数以上の人が手を挙げたというのだ。まさに時間と場所を選ばないコミュニケーションとして確固たる地位を築いた証だろう。電子メールは,プロジェクトにおいても重宝される便利なツールである。しかし,プロジェクトマネージャ(PM)が,コミュニケーション・ツールとして,これに頼りすぎてしまったばっかりに失敗してしまったという例は少なくない。

メールで士気を落としたAさんの失敗

 Aさんは大手通信事業者の中堅SEである。今回,Aさんは,上司から自社の交通費精算システム再構築のPMとして任命された。もともとAさんはSE時代からコミュニケーションについては苦手意識を持っており,上司もそのことは承知していた。しかし,Aさんに育ってほしいという思いから,あえてPMに抜擢したのだった。

 ふたを開けてみると,Aさんが心配したほどの問題も無く,プロジェクトは順調にスタートした。あるとき,Aさんは仕事の依頼を電子メールで各リーダーに送信した。Aさんが指定する期日までに,ある資料に目を通してほしいという内容だった。

 すると,さすがに若い世代である。即座に返信メールが届いた。それどころか,その資料の内容についてメール上で議論が始まったのだった。これにはAさんも驚いた。自分の書いた何気ないメールでプロジェクトが活気づいたように感じたのだ。そこで,Aさんもこの議論に交わってメール交換を行い,これまで以上に若手技術者と意見を交わすようになったのである。これをきっかけにAさんはすっかり電子メールを中心にコミュニケーションを取るようになった。

 あるとき,Aさんはあるサブチームで発見した障害を伝える緊急メールを各チーム・リーダーに送信した。この障害はすべてのチームに影響がある可能性があったからだ。Aさんは皆が即座に反応すると思っていた。実際はそうではなかった。プロジェクトが後半に近づき各チーム・リーダーは,頻繁に電子メールをチェックするほどのゆとりがなかったのだ。

 Aさんがメールを送信した翌日,メールを読んでいないリーダーの一人が,同様の障害を発見したとAさんに報告のメールを出した。するとAさんはそのメールの返信で,既にそのことについては前の日に自分がメールを出しているので読んでくれと答え,今後このようなことがないようにとクレームを付けたのだった。

 このクレーム・メールはAさんの虫の居所が悪かったときに書いたこともあり,少々表現が厳しかった。そのためかこのメールはチーム・リーダー間で大きな反響を呼んでしまった。このメールを発端に同障害に対する議論となり,かつ話題は枝葉に発散してしまった。しまいには,担当者名指しでの中傷にまで発展した。Aさんがまずいと感じたときは,既に遅かった。チーム内の雰囲気はすっかり悪くなり,士気も落ちてしまったのだった。