山本 直樹
ベリングポイント
テクノロジーソリューションチーム シニア マネージャー

 早いもので、本連載は今回で最終回を迎える。これまでも実際に発生した業務中断の事例をいくつか紹介したが、今回はまず、今年8月に発生したばかりの事例を2件取り上げる。後半では、企業がBCM(事業継続マネジメント)に取り組むことの意義を総括する意味で、今後、企業がBCMをどのように発展させていくべきかについて、筆者なりの意見を述べる。

テレビ放送中断と高速道路火災を考察する

 まずは、最近発生した業務中断の事例で、特に気になる出来事を2件紹介したい。それぞれについて報道された内容などから、どのようなことが読み取れるか考察してみよう。

 一つ目は、テレビ局の放送中断だ。

 2008年8月14日、広島市中区に本社を構える中国放送のテレビ放送が2時間中断した。原因は、広島市南区にある同社の送信所「RCC広島テレビジョン放送局」で発生した火災である。落雷により配電盤やケーブルが燃え、午前9時ごろから約2時間、広島県内全域においてテレビのアナログ放送が途絶えた。

 中国放送は、この間、民放テレビ局の収入源である広告料を得られないだけでなく、報道機関としての使命を果たせなくなった。当然ながら、中国放送には視聴者からの苦情が相次いだそうだ。

 落雷は自然現象であるため、これを未然に防止することはできない。しかし、今回のように送信所が火災になり、その機能が不全になった場合に、もう少し早く他のバックアップ設備に切り替えることはできなかっただろうか。

 また、たった1カ所の送信所が被害を受けただけで、県内全域に影響が及んでしまった点も気になる。事業継続の観点からみると、この送信所は、いわゆるボトルネックだったことになる。不測の事態に備えた、冗長構成を取るべきではなかったのではないだろうか。

 気になる出来事の二つ目は、東京の高速道路で起きた火災だ。

 2008年8月3日、首都高5号池袋線の熊野町ジャンクション付近でタンクローリーが横転し、大規模な火災が発生した。この件はニュース番組などで幾度となく報道されたので、読者の皆さんもよくご存知だろう。

 路上の火災自体は、時折、発生するものである。たいていの場合、安全が確認されるまではいったん通行止めになるが、鎮火後2~3日の間には再び開通する。しかし、今回は違った。専門家による調査の結果、橋桁の損傷が激しく、架け替えが必要なことが判明。完全に復旧するまでに、3~4カ月を要することとなった。

 この間、首都高の運営会社である首都高速道路は、通行料の大幅な減収が見込まれるだけでなく、道路の補修工事に多額の出費を強いられることになった。8月28日の記者発表では、これまで1日平均115万台程度あった通行台数は、事故後に8%減少し、通行料の減収額は1日5000万円に上ることが明らかにされた。

 1日5000万円の減収が4カ月続けば、単純計算で60億円の減収ということになる。平成20年度(2008年度)の期首に示された、同社の平成21年3月期の営業収益見込みは3184億円。同社は火災によって、その2%近くを失うばかりか、巨額の工事費用の負担を迫られる。経済的ダメージは甚大だ。首都高速道路は損害額が確定した後、事故を引き起こした運送会社に補償を求める方針だという。

 首都高火災の件については、もう一つ、別の観点からも考察しておきたいことがある。それは、事故後のコミュニケーションについてだ。

 首都高速道路は、事故発生以降、Webサイトなどを通じて積極的な情報開示を行っている。通行止め、入口閉鎖、(無料)乗継案内などの基礎情報を公開するほか、次回の情報開示がいつ頃になるか、といったことについても、きめ細かく言及している。

 また、現場復旧状況の写真をほぼ毎日更新している(図1)。公共性の高い事業であるため、情報公開は当然の責務だと言ってしまえばそれまでだが、関係者への影響を配慮して、情報を最大限開示している点は評価に値する。業務中断発生後の対外的なコミュニケーションとしては、一つのベストプラクティスだと言ってよい。

図1●首都高速道路が火災事故発生後に、Webサイトを通じて開示している情報の例(現場復旧状況の写真)
図1●首都高速道路が火災事故発生後に、Webサイトを通じて開示している情報の例(現場復旧状況の写真)
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