連載第3回で分析するのは中規模な企業ネットワークの集計結果である。ここでいう中規模ネットワークとは,つながるパソコンの台数が101台~1000台以下の企業ネットワークのこと。回答数は238件で全体(689件)の約1/3に当たる。拠点数の平均は20である。それでは中規模ネットワークの実像を,第2回と同様にインターネット接続のアクセス回線から見ていこう。

WANの乗り換えが目立つ

 中規模ネットワークで採用されているインターネット接続のアクセス回線は,1位がFTTH(fiber to the home)で2位がADSL(asymmetric digital subscriber line)という結果だった(図3-1)。この順位こそ小規模ネットワークと変わらないものの,中規模ネットワークではその差は大きく,ADSLはFTTHの半分程度にとどまる。その一方で,3位の専用線はADSLとほぼ同じ導入率となっている。コスト,速度だけではなく,安定性を重視する企業ニーズの存在を示している。

図3-1●インターネット接続のアクセス回線(複数回答)
図3-1●インターネット接続のアクセス回線(複数回答)
6割以上がFTTHを利用している。

 導入しているWANサービスのトップは小規模ネットワークと同じくインターネットVPN(virtual private network)である。ただし中規模ネットワークでは,IP-VPNと広域イーサネットもよく使われている(図3-2)。そもそも中規模ネットワークでは,WANを構築している企業の方が多数派である。小規模ネットワークではWANを構築していない企業の方が多かった。

図3-2●WANサービス(複数回答)
図3-2●WANサービス(複数回答)
インターネットVPN,IP-VPN,広域イーサネットがよく使われている。

 しかも中規模ネットワークでは,複数のWANサービスを併用している企業も珍しくなく,WANを構築している企業全体の1/3を占めた。自由回答欄の記述を見ると,業務アプリケーションなどで利用する基幹系のネットワークをIP-VPN,メールやWebアクセスに使う情報系をインターネットVPNといった用途に応じた使い分けや,サービス提供地域によって使い分けているケースがあった。

 このほか自由回答欄で目についたのは,WANサービスを乗り換えたケースである。IP-VPNからインターネットVPNへ乗り換えたケースでは「通信費が半額以下になった」という声があった。IP-VPNから広域イーサネットへ乗り換えたケースでは「セキュリティ・レベルを下げずに広帯域化し,同時に通信コストを下げるため」という理由によるものだった。

IP電話の導入率は3割弱

 IP電話の導入率は外線,内線ともに3割弱と,小規模ネットワークとそれほど変わらない結果となった(図3-3図3-4)。導入した企業の自由回答欄を見てみると,PBXの老朽化に伴ってIP電話に移行するケースと,WANの刷新に合わせてデータと音声の統合網を構築するケースがあった。後者の統合網を構築するケースでは,LAN,WANともに音声パケットにQoS(quality of service)を適用している。ただし,中規模ネットワーク全体でみるとQoSの適用率はLANで約1割,WANで約2割にとどまっている。

図3-3●IP電話(外線)
図3-3●IP電話(外線)
「導入予定なし」が過半数を占める。

図3-4●IP電話(内線)
図3-4●IP電話(内線)
導入している企業は全体の約1/4。

 ビデオ会議/動画配信システムは,「導入予定なし」が多数派なのは小規模ネットワークと同じだが,多地点間のビデオ会議システムは約3割の企業が導入している(図3-5)。

図3-5●ビデオ会議/動画配信システム(複数回答)
図3-5●ビデオ会議/動画配信システム(複数回答)
多地点間のビデオ会議システムは約3割の企業が導入している。

メールは「自社にサーバーを設置」が半数を占める

 中規模ネットワークでは,社外との通信用のメール・サーバーを「自社に設置」する企業ユーザーがちょうど5割を占めた(図3-6)。「事業者のサービスを利用」する企業は約3割で小規模ネットワークの場合よりも低く,データ・センターに設置する企業ユーザーの比率は1割強とそれほど変わらなかった。

図3-6●メール・サーバーの運用
図3-6●メール・サーバーの運用
自社に設置する企業が5割を占める。

 社外向けのWebサーバーは,「事業者のサービスを利用」と「自社に設置」が同率で並んだ(図3-7)。Webサーバーを設置していない企業ユーザーは全体の1割未満となり,中規模ネットワークではほとんどの企業が情報公開などにWebサーバーを導入している。

図3-7●Webサーバーの運用
図3-7●Webサーバーの運用
自社に設置する企業と事業者のサービスを利用する企業がほぼ同数。