携帯電話のARPU(1契約当たりの月間平均収入)は各社が減少傾向にある。2007年度の総合ARPUは,NTTドコモが前年度比340円減の6360円,KDDIが同350円減の6260 円,ソフトバンクが同857円減の4658円である(表1)。音声や映像コンテンツの拡充でデータ通信のARPUは少しずつ伸びているものの,音声 ARPUの落ち込みをカバーできない状況が続いている。2008年度はさらに下がる見通しで,NTTドコモは前年度比720円減の5640円,KDDIは同600円減の5660円と予想する。

表1●大手3社のARPUの推移
データARPUは伸びているが,音声ARPUの落ち込みが激しく,総合ARPUの減少傾向が続いている。
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表1●大手3社のARPUの推移<br>データARPUは伸びているが,音声ARPUの落ち込みが激しく,総合ARPUの減少傾向が続いている。

 音声ARPUが減少する主な要因は,(1)MoU(1契約当たりの月間平均通話時間)の低下,(2)基本料の一律半額や家族内通話の無料化といった料金施策の浸透,(3)端末価格と通信料金の内訳を明確に区別した分離プランの導入が挙げられる。中でも影響が大きいのは(2)と(3)だ。(2)の料金施策は,NTTドコモとKDDIが2007年8月~9月に,2年間の継続利用を前提に基本料を一律半額にする割引プランを導入した。2008年3月~4月には両社とも家族内通話の無料化にまで踏み切った。

分離プランで端末販売収入が急増

 (3)の分離プランは,端末価格と通信料金の透明性や公平性を高めるため,総務省が2007年9月に各事業者に導入を要請した料金プラン(図1)。これまでは多額の販売奨励金を投入して端末を安く売り,毎月の通信料金で販売奨励金を回収する仕組みが一般的となっていた。NTTドコモとKDDIは総務省の要請を受け,新しい端末販売方式を導入。従来の販売奨励金モデルに加え,端末販売奨励金なしで低廉な通信料金で利用できる分離プランを2007年11月から提供開始した。

図1●分離プランの浸透でARPUの減少が顕著に<br>従来は端末販売奨励金を毎月の通信料金で回収する仕組みになっていた。しかし,端末価格と通信料金の内訳を明確に区別した分離プランの導入が進んだことで,ARPUの減少が激しくなっている。
図1●分離プランの浸透でARPUの減少が顕著に
従来は端末販売奨励金を毎月の通信料金で回収する仕組みになっていた。しかし,端末価格と通信料金の内訳を明確に区別した分離プランの導入が進んだことで,ARPUの減少が激しくなっている。
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 分離プランの結果,毎月の通信料金が安くなるのでARPUの減少につながる。ただ,端末を定価に近い価格で販売するので販売収入は増える。つまり,ARPUの低下が直ちに業績悪化にはつながらない。むしろ端末販売奨励金を投入しない分,収益を先取りする効果をもたらす。

ARPUだけで経営状況の推測は困難に

 分離プランの影響は事業者によって異なる。NTTドコモは2007年11月の導入当初から分離プランに重点を置いたため,販売奨励金などの営業費用が大幅に減り,増益に貢献した。2008年度は携帯電話収入が料金施策の浸透で約4140億円減るが,端末販売収入が約4180億円増え,全体の売上高は増収を見込む。2008年度に見込む総合ARPUの減少分720円の内訳は,MoU減少の影響が170円,基本料の一律半額,家族内通話の無料化,分離プランによる影響が500円,残りがその他である。

 一方,KDDIは2007年11月に分離プランを導入したものの,当初は従来の販売奨励金モデルに重点を置いたため,分離プランの影響は少ない。しかし,2008年6月から割賦販売方式を導入し,分離プランを刷新。2008年度に見込む音声ARPUの減少分650円の内訳は,MoU減少の影響が4割弱,料金施策の浸透が4割弱で,「割賦販売方式(分離プラン)導入による影響は2割程度の減少の範囲内」(KDDI)としている。

 ソフトバンクモバイルは,2006年10月に導入した割賦販売方式の「新スーパーボーナス」が分離プランに相当すると主張している。新スーパーボーナスでは端末に対する月々の支払いの一部相当を,「特別割引」として通信料金から割り引く。このためARPUは低い。同社によると,2007年度の総合ARPUは4658円だが,これに割賦請求分を加えると5518円になるという。

 このように分離プランの導入で事業者の収入構造が変わりつつある。さらに今後は収益共有(レベニュ・シェア)モデルや通信サービス以外の事業領域も増えていくことが予想され,単純にARPUだけでは事業者の経営状況を推し量れなくなっている。今後は「AMPU」(average margin per user,1契約当たりの平均粗利)など,別の指標が必要になるだろう。

設備投資は一時的に減少

 このほか,業績に大きな影響を及ぼす要素に設備投資がある。各社の2007年度設備投資額は,NTTドコモが前年度比1757億円減の7587億円,KDDIが同628億円増の3917億円,ソフトバンクが同731億円減の2353億円,イー・モバイルが同674億円増の982億円である(表2)。

表2●携帯各社の設備投資額
ソフトバンクは2008年度予想を公表していないが,KDDI以外は下がる見通しである。
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表2●携帯各社の設備投資額<br>ソフトバンクは2008年度予想を公表していないが,KDDI以外は下がる見通しである。

 KDDIは2008年度に2GHz帯と新800MHz帯への投資などで前年度比443億円増の4360億円を見込むが,その他の3社は設備投資額が低減する見通しである。NTTドコモはFOMAエリアの拡大がピークを越えたとしており,2008年度予想は同397億円減の7190億円を見込む。ソフトバンクも固定系を含めた連結の設備投資額で2008年度は「2千数百億円台後半」(孫正義社長)としており,前年度を下回る見通し。イー・モバイルも同332億円減の650億円の予想である。ただ,2~3年後にはHSUPA(high speed uplink packet access)や,LTE(long term evolution)への設備投資が控えている。設備投資の低減は一時的に過ぎない。

 第1回で説明したように,通信大手3社の業績は携帯電話事業に大きく依存している。その携帯電話事業がいよいよ市場の飽和で成長が鈍化しつつある。持続的な成長を遂げるには,新規ビジネスの創出による新たな収益源の開拓が急務となる。