秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
取締役・マネ―ジングディレクター

 リクルートにいたとき、私は学生に企業を紹介する情報誌の商品企画をやっていました。企業を紹介する定番手法の1つに、各社の制度を特集するというものがあります。

 たとえば、「新規事業のコンテストをやっている」「女性の管理職を積極的に登用する」などの制度です。これらは学生にとって一見とても魅力的です。しかし、取材に行ってみると実情はそうともいえません。こういった制度は、うまくいかなかった不幸な歴史を解決するために作られることが多いのです。

 放っておいても新規事業が起こる会社では、わざわざこのような制度を作る必要などありません。男性であろうと女性であろうと適材適所で昇格させてきたなら、女性だけに焦点をあてた登用制度など不要でしょう。

 もちろん、過去からの慣行を制度として形式化する場合もあるので、制度があることをもって、うまくいっていないと決めつけることは適切ではありません。しかし、どちらかというと、問題があるから制度化していることのほうが多いのです。

コンプライアンス制度がないのは幸せな証し

 コンプライアンスに関しても同様です。「うちは遅れていて、何の制度もありません」とおっしゃる企業がありますが、恥じることはありません。今まで、制度がなくとも経営者と社員が互いに協力し合って、事故なく運営できてきたことを誇ってよいのです。ただ、そんな企業で何か事件が起こってしまうと、マスコミは何もまともにやっていなかったずさんな会社と決めつけてしまいます。そう言われるとそうなのですが、たとえば、与信管理をやっていなかった、ではなく、それすらやらなくてもよいほど優良な取引先ばかりであった証でもあるのです。

 しかし、そんな会社に、能力がありかつ何らかの動機をもつ人間がいると簡単に手玉に取られてしまいます。大和銀行のニューヨーク支店、青森県の住宅供給公社の事件などはその典型です。悪い人がいないことを前提とした管理手法をとっているところに、悪い人(悪いことをせざるを得ない状況に追い込まれた人を含む)がくると簡単にぼろぼろにされてしまいます。

 残念ながら、これからの時代は、無法者の存在を前提としないわけにはいかない時代に入ってしまったのです。

 日本企業はこれまで、顔の見える社員が長期に働いてくれることで、コンプライアンスに対してそれほどの備えをせずとも十分に対処してこれました。しかし、現在はその環境が大きく崩れ、コンプライアンス体制をきちんと作る必要にせまられています。それらを加速させているのが、次に述べる6つの潮流です。

 1.流動化する人材市場
 2.同質化行動から差別化行動へ
 3.コミュニケーション絶対量の減少
 4.マリーシア文化の広がり
 5.利益プレッシャーの高まりとM&A
 6.グローバリゼーションへの巻き込まれ