通信大手3社の携帯電話事業は勢いの差が業績にくっきりと表れている。契約数の増加に苦しむNTTドコモは横ばいであるのに対し,契約数を着実に伸ばすKDDIとソフトバンクは大幅な増収増益で絶好調。この状況は2006年度と同じである。

 NTTドコモの2007年度の売上高は前年度比1.6%減の4兆7118億円,営業利益は同4.5%増の8083億円の減収増益だった。これに対してKDDIの移動通信事業は売上高が同6.9%増の2兆8626億円,営業利益が同18.0%増の4550億円で増収増益を続けている。ソフトバンクの移動体通信事業も売上高が同13.1%増の1兆6309億円,営業利益が同12.1%増の1746億円の増収増益である(表1)。

表1●携帯大手3社の業績の推移
数字は上段が売上高,下段が営業利益。NTTドコモは売上高/営業利益ともにほぼ横ばい。KDDIとソフトバンクは売上高/営業利益ともに順調に伸びている。
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表1●携帯大手3社の業績の推移<br>数字は上段が売上高,下段が営業利益。NTTドコモは売上高/営業利益ともにほぼ横ばい。KDDIとソフトバンクは売上高/営業利益ともに順調に伸びている。

 ただ,売上高と営業利益の水準は依然としてNTTドコモが圧倒的に高い。携帯大手3社の2007年度の売上高の合計は9兆2053億円。各社の売上高シェアはNTTドコモが51%,KDDIが31%,ソフトバンクが18%と,契約数シェアを反映した結果となっている。売上高利益率もNTTドコモが17.2%と最も高く,KDDIは15.9%,ソフトバンクは10.7%である。足元の業績こそ横ばいだが,NTTドコモが最も堅調である。

 なお,2007年3月に新規参入を果たしたイー・モバイルの2007年度の売上高は145億円,営業損益が382億1000万円。PHS事業者のウィルコムは売上高が前年度比70億5500万円増の2546億1500万円,営業利益は同50億4000万円増の50億900万円で黒字に転換した。

 2008年度予想は,NTTドコモの売上高が前年度比1.2%増の4兆7680億円,営業利益が同2.7%増の8300億円の増収増益。KDDIも売上高が前年度比1.7%増の2兆9110億円,営業利益が同9.2%増の4970億円の増収増益だが,伸びはやや鈍化する見通しである。イー・モバイルは売上高が850億円,営業損益が360億円の見込みで,ソフトバンクとウィルコムは2008年度予想を公表していない。

 以下では,携帯電話事業による収入の基本となる契約数とARPU(1契約当たりの月間平均収入)を中心に各社の業績を具体的に見ていこう。

純増数シェアはソフトバンクがトップ

 携帯電話の契約数は市場の飽和が叫ばれる中,いまだに伸び続けている。契約数は2007年12月に1億件の大台を突破し,2008月3月末で1億272万4500件となった。2007年度の純増数は600万6600件で,2005年度の479万4400件,2006年度の492万5900件から伸びている。

 各社の2008年3月末時点の契約数は,NTTドコモが5339万件,KDDIが3034万件,ソフトバンクモバイルが1859万件,イー・モバイルが41万件である。シェアはNTTドコモが圧倒的に高く52.0%。これにKDDIの29.5%,ソフトバンクモバイルの18.1%,イー・モバイルの0.4%と続く。ただし,NTTドコモのシェアは徐々に落ちており,PHSを含めた移動体通信全体のシェアでは50%を割り,49.7%となった(図1)。

図1●携帯電話・PHSの契約数とシェア<br>NTTドコモのシェアはついに50%を割った。電気通信事業者協会(TCA)の公表値などを基に本誌で作成。
図1●携帯電話・PHSの契約数とシェア
NTTドコモのシェアはついに50%を割った。電気通信事業者協会(TCA)の公表値などを基に本誌で作成。
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 契約数の伸びで勢いがあるのはソフトバンクモバイルとKDDI。2007年度の純増数のトップはソフトバンクモバイルの268万件。2位がKDDIの215万件,3位がNTTドコモの77万件である。4位はイー・モバイルの41万件で,基本的にデータ通信サービスだけでこの件数を獲得した。携帯電話の年間純増数シェアで見るとソフトバンクモバイルがトップで44.6%,KDDIが35.8%,NTTドコモが12.8%,イー・モバイルが6.8%である。なお,ウィルコムの2008年3月末の契約数は462万件で,2007年3月末の453万件からかろうじて純増を維持した。

 月間純増数に着目すると,勢いの差が鮮明に分かる(図2)。中でも躍進が目立つのはソフトバンクモバイル。2007年5月に初めて純増数のトップを奪取すると,その後13カ月連続でトップを維持している。

図2●携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)導入以降の各社純増数の推移<br>MNP導入以降は2007年4月までKDDIがトップを続けていたが,2007年5月以降はソフトバンクモバイルが13カ月連続でトップを守っている。
図2●携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)導入以降の各社純増数の推移
MNP導入以降は2007年4月までKDDIがトップを続けていたが,2007年5月以降はソフトバンクモバイルが13カ月連続でトップを守っている。
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 逆に,不振に苦しんでいるのがNTTドコモ。2006年7月以降,NTTドコモが純増数のトップを獲得した月は一度もない。2006年11月に創業以来初めての純減を記録し,2007年8月にも二度目の純減という苦渋を味わった。2008年1月にはデータ通信サービスだけを提供(当時)するイー・モバイルにも純増数で抜かれた。

 さらに携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)による転入と転出の差を見ると,NTTドコモの不振が顕著に分かる。2008年5月までの転入出の累計は,NTTドコモが約166万件の転出超過(表2)。同社はもともとシェアが高い分,他社に奪われやすいと言えるが,MNPの影響をまともに受けた。逆に,最も恩恵を受けたのはKDDIで,約147万件の転入超過である。

表2●携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)の利用状況
転入と転出の差を合計した。NTTドコモはMNPの開始以降,転出超過が続いている。
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表2●携帯電話の番号ポータビリティ(MNP)の利用状況<br>転入と転出の差を合計した。NTTドコモはMNPの開始以降,転出超過が続いている。

市場の飽和がいよいよ本格化

 契約数の伸びは2008年度からいよいよ鈍化しそうだ。今後は法人向けなど2台目需要が期待されているが,限界がある。2008年3月末時点の携帯電話・PHSの総契約数は1億733万9800件。総務省統計局によると,日本の総人口は2008年3月1日時点で1億2772万人(概算値)である。総人口に比べるとまだ伸びしろがあるように見えるが,0~4歳が542万人,5~9歳が585万人,10~14歳が598万人,65歳以上が2781万人といった人口分布を考えると,一人で2台以上保有しているユーザーが既に相当程度いると予想できる。

 2台目需要を本格的に狙う端末やサービスが登場すれば増えるかもしれないが,各社の契約数予想は控えめ。KDDIは2008年度純増数を前年度比41%減の126万件と見込む。NTTドコモは同40%増の108万件と予想するが,このうち29万件は1台で2契約となる「2in1」である。ソフトバンクモバイルは2008年度予想を公表していない。サービス開始から2年目のイー・モバイルは,「さらに100万件上乗せしたい」(エリック・ガン社長兼 COO)と現時点の約2.5倍となる目標を掲げるが,それでも業界全体の純増数は2007年度を上回りそうにない。

 もちろん事業者は新規需要が落ち込んでも,他社のユーザーに自社への乗り換えを促すことで契約数を伸ばせる。しかし,ユーザーの流動性も鈍化しつつある。MNP対策や後述する分離プランの導入で,各社が契約期間を長期間拘束する料金プランや端末販売方式を相次ぎ導入したためだ。2007年度の解約率を見るとNTTドコモが0.80%,KDDIが0.95%,ソフトバンクモバイルが1.32%で全体的に水準が低い。2008年度はさらに下がる見通しである。KDDIの2008年度予想は0.91%。2008年4月の「新ドコモ宣言」で既存顧客重視の姿勢を打ち出したNTTドコモは0.6%を目標に掲げる。