NTTグループは固定通信事業の低迷に苦しむ中,NTT持ち株会社が将来5年間のグループ戦略をまとめた新たな中期経営戦略を2008年5月に公表した。今後はグループ内の連携を一層強化し,NGN(次世代ネットワーク)と3G(第3世代携帯電話)のインフラをベースとしたサービスの拡充に軸足を移す(図1)。2010年度にはNGNの提供エリアを現状のBフレッツと同じレベルにまで広げ,FTTHサービスの契約目標である2000万ユーザーの約半数がNGNを利用することを想定する。

図1●NTT持ち株会社が2008年5月に打ち出した新・中期経営戦略<br>NGN・3Gのサービスを強化し,ソリューション系+IP系を軸とした事業構造への転換を目指す。
図1●NTT持ち株会社が2008年5月に打ち出した新・中期経営戦略
NGN・3Gのサービスを強化し,ソリューション系+IP系を軸とした事業構造への転換を目指す。
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 2010年度にはNTTドコモによる第3.9世代携帯電話のLTEの展開も始まり,携帯電話網もIP化が進む。2012年度に向けて固定と移動が本格的に融合した「ブロードバンド・ユビキタス・サービス」の展開を計画する。

 さらに現行のIP網はすべてNGNに統合していく。現状で,NTT東日本は2重,NTT西日本は3重のIP網を保持しているが,その運用管理コストがかさんでいる。2010年度から既存IP網のユーザーを段階的にNGNに巻き取り,2012年度に移行を完了させる。2011年度にはFTTHサービスの単年度黒字も見込む。

 これに伴い,今後はIP系とソリューション系が中心の事業構造に転換していく。現状は音声伝送などのレガシー系が売上高の約半分(48%)を占めているが,2012年度に向けてIP系とソリューション系を全体の75%にまで引き上げる。連結営業利益は2007年度の1兆1447億円から2010年度に1兆2000億円,2012年度に1兆3000億円に拡大することを目標に掲げる。

成長の先には組織問題の壁

 NTTは新・中期経営戦略で上位サービスの拡充に注力する方針を打ち出した。ただし,同社の今後の経営状況を推し量るうえでカギとなるのは依然としてFTTHサービスである。確かに上位サービスの拡充で収入増を期待できるが,単独で大きな収入源に育つまでは期待できないからだ。NTTの狙いは,競争の激しい上位サービスによる成長ではなく,上位サービスの拡充でFTTHサービスの新たな需要を喚起し,契約数を拡大することにある。

 NTT東西の光ファイバ・インフラは現状,接続料収入よりも敷設コストの方が高く,赤字となっている。この状況にもかかわらずNTT東西は,大量の販売促進費を投入してFTTHサービスを販売している。

 だが,FTTHサービスの契約数が拡大すれば光ファイバ・インフラの利用効率が高まり,黒字転換できる。NTT持ち株会社によると,計画通りに契約数の拡大が進めば2009~2010年度にペイできる状態になるという。あとは販売促進費を減らすことにより,FTTHサービスの単年度黒字もおのずと見えてくる。

 こうした重要な節目が2010年度の「光・2000万契約」と言える。ソフトバンクBBのADSLサービス「Yahoo! BB」も2001年の開始以降は長らく赤字だったが,2005年度に黒字転換してから安定した収益を上げている。NTT東西も同様にFTTHサービスで安定した収益を確保できる体制を目指す。特にFTTHサービスはその先の代替サービスが登場していないことからブロードバンドの本命とされており,将来は“ ドル箱”の事業に育つ可能性が高い。そうなれば固定通信事業全体の黒字化も見えてくる。

 ただ,こうした計画をよそに2010年にはNTTの組織問題の議論が待ち構えている。NTTが固定と携帯の両方で圧倒的なシェアを握れば風当たりが強くなる。特にFTTH市場はNTT東西が既に72.2%のシェアを占めている(2008年3月末時点)。NTT東西のFTTHサービスが2000万契約に近付けばシェアはさらに高まり,アクセス分離の議論が再燃する可能性もある。NTTは成長に向けて努力するほど組織問題の議論で自らの首を絞める──という皮肉な構図となっている。

アクセス回線に力を入れるKDDI

 固定通信事業に限ると,KDDIやソフトバンクも好調ではない(表1)。特にKDDIは2007年度に7186億円の売上高を計上したが,営業損益は647億円の赤字。FTTH拡販の影響で,赤字幅は2006年度から拡大した。2008年度も580億円の赤字となる見通しである。

表1●KDDIとソフトバンクの固定通信事業の業績
数字は上段が売上高,下段が営業利益/損益。
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表1●KDDIとソフトバンクの固定通信事業の業績<br>数字は上段が売上高,下段が営業利益/損益。

 ソフトバンクは昨年度まで固定通信事業が赤字だったが,2007年度は黒字に転換した。固定通信事業はソフトバンクテレコムの業績が主に反映されており,2007年度の売上高は前年度比0.9%減の3707億円だったが,営業利益は33億円の黒字だった。おとくラインを主軸とした法人ビジネス基盤が拡大したという。

 ソフトバンクBBの業績を中心に構成するブロードバンド・インフラ事業は2007年度の売上高が同2.3%減の2581億円だったものの,営業利益は397億円の増益。ここではADSLサービス「Yahoo! BB」が貢献している。

 こうしたKDDIとソフトバンクの差は固定通信事業に対する方針の違いにある。KDDIは「IP時代で収入源がアクセス回線にシフトしており,直収化・自前化によるアクセス回線の取り組みが不可欠」(小野寺正社長兼会長)として直収電話とFTTHサービスに力を入れる。

 KDDIが特に力を入れるのはFTTHサービス。2007年1月に実施した東京電力の光ファイバ事業の統合に続き,2008年4月には中部電力子会社の中部テレコミュニケーションを連結子会社化した。2007年度末のFTTHサービスの累計契約数は71万件だが,2008年度末は114万件に伸ばす計画だ(表2)。

表2●KDDIとソフトバンクにおける固定通信サービスの契約数
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表2●KDDIとソフトバンクにおける固定通信サービスの契約数

 一方,ソフトバンクはFTTHサービス自体を積極的に提供していない。一部地域でFTTRも展開しているが,まだ大きな事業にはなっていない。