Ken McGee氏
米Gartner
Vice President &
Gartner Fellow
Ken McGee氏

 「ITには、不況から国や企業、個人を立ち直らせる力がある」。米Garter社リサーチ部門のKen McGee氏はこう語る。そのカギは、IT専門家こそが設計できる画期的なITソリューションが握るという。不況を脱する前に成長計画を準備する。ITの破壊的技術を活用してこそ実現できる業務やビジネスを企画する。これらアクションを現実のものにするには、IT部門自身の革新が不可欠だとMcGee氏は訴える。
(編集・構成は矢口 竜太郎=日経コンピュータ)



 ITには、この不況から米国を立ち直らせる力があります。くり返します。ITには、この不況から米国を立ち直らせる力があります。でも、実現できるかどうかは、みなさん次第です。

 ちょっと考えてみてください。「冬に流行するインフルエンザウイルス」「キングコブラのひと咬(か)み」「不況」の三つに共通する点はなんでしょうか。

 まずインフルエンザウイルスについて。毎年、インフルエンザウイルスのワクチンが作られますが、これは、その前年に流行したインフルエンザのウイルス株を3種類組み合わせて製造します。つまり、インフルエンザウイルスを使ってインフルエンザウイルスをやっつけるのです。

 コブラにかまれたらどうなるでしょうか。生き延びられるかどうかは、致死性のコブラの毒液から作った薬剤を投与してもらえるかどうかにかかっています。毒液を使って毒液をやっつけるのです。

 それと同じように、今回の景気後退も、不況をもたらす原因となった力を使ってやっつけることができると思います。それはイノベーションという力です。

 つまりこういうことです。お金を貸す人々や投資家の多くが住宅ブームに関与したいと考えたとき、「金融エンジニア」たちががんばりました。こうして、アルファベットだらけの新製品が住宅ローン関係で次々と生みだされました。CDOだとかSIV、CMOだとかCBOといったものです。金融エンジニアは純粋な情報をエンジニアリングしたのです。

 そして、前回市場でバブルがはじけてからたったの5年で、まったく新しいバブルが登場しました。ネットワークを技術を利用して、米国発の金融製品はドイツやインドなど、地球の向こう側を含む世界中の銀行にまで、あっという間に広がりました。

 インフルエンザウイルスやコブラと同じように、今回の不況は、イノベーションにイノベーションをぶつけることで逆転させ、事業成長への道をふたたび明らかにできるはずだと思います。

 2007年10月、不況への備えを用意すべきだとのアドバイスをみなさんに提供しました。そのアドバイスに従ったみなさんは、全社的なコスト削減構想のうち、IT関連部分を実施するためのITコスト削減チームをすでに展開しているか、あるいは、展開の準備が整っているはずだと思います。

 また、我々のアドバイスに従っておられるなら、みなさんは、我々がみなさんに提供する新しいアドバイスを十二分に活用できる状態になっているはずです。

不況が終わってから動き出しては遅い

タイトル

 今こそ、昨年提供した構想の逆を行き、イノベーションを推進し始めましょう。社員にコスト削減を推進させるながら、それと並行して別の社員には、事業の成長に向けた準備をさせるのです。今すぐに!

 なぜ、今なのでしょうか。不況の最悪期なのかもしれない、この時期にです。それはタイミングが大事だからです。終わらない不況はありません。

 私の妻は、昔、雑誌の編集に携わっていました。そのころ、毎年5月、我が家の中はクリスマス一色に染まっていました。広告キャンペーンを計画し、クリスマス向けの写真を撮り、その他、クリスマスのショッピングシーズンまでにやらなければならないことをたくさんしました。クリスマス時期に雑誌を出版するためには、12月の何カ月も前から準備する必要があるからです。クリスマスシーズンが来るまでのほほんと待っていたら、貴重なビジネスのチャンスを逃し、たぶん、職も失うことでしょう。

 同じことです。不況が終わったと公式発表があってから成長の計画を考えはじめたのでは、成長のチャンスを数カ月、あるいは1年も逃すことになります。前回の不況が終わったのは2001年11月です。でも、公式発表があったのは2003年7月でした。

 最初の質問をもう一度、見てみましょう。どうしたら、ITとイノベーションにより、米国をこの不況から回復させることができるのでしょうか。そして、みなさんは何をすべきなのでしょうか。

 まずは、準備を整えましょう。月曜日になったら役員と部門長を集めた会議を招集し、プロジェクトポートフォリオのリストを再検討し、本当に必要なプロジェクトと間引かなければならないプロジェクトを選別しましょう。

 やらなければならないことはとてもシンプルです。事業を成長させるプロジェクトにゴーサインが出る「前」に、事業の成長計画を完成させておくのです。「様子見」のプロジェクトや評価待ちで遅れをとらないこと。ベースラインを「リセット」しましょう。これこそがゼロベース予算です。

 並行して、何か新しいものを導入する必要があります。ITイノベーションを基にして方法を変え、結果を生みだす何かを。そうしなければ、代わり映えのしない結果しか得られません。

 第3の種類のITイノベーションを追加する必要があるでしょう。第1の種類のITイノベーションは、IT部門の人々が特定し端緒を開いたITニーズを満足させるため、ITの専門家が技術的ソリューションの改善を行うと発生します。

 たとえば、インフラストラクチャの更新などがそうです。ネットワークの高速化、ストレージのコスト削減、仮想化による柔軟性向上、情報管理の改善などが実現されます。

 第2の種類のITイノベーションは、事業部門の人々が思いついた事業ニーズを満足させるため、ITの専門家が画期的なITソリューションを設計すると発生します。

 このような場合、CRM(顧客関係管理)システムの増加、スマートなBI(ビジネスインテリジェンス)ツール、便利なモバイルデバイスなどが求められます。しかしここで得られるメリットは一般的に、戦略的に意味においてあまり大きくありません。

 第3の種類のITイノベーションはめったに生まれませんが、とてもパワフルです。このタイプのイノベーションは、事業ニーズを満足させるため、IT部門の人々が思いつき、ITの専門家が画期的なITソリューションを設計すると発生します。