携帯電話事業者が今後の継続的な成長を遂げるには,現在の主な収入構造である「契約数×ARPU」という枠組みにとらわれない収入源を開拓する必要がある。契約数は市場の飽和で伸びが止まりつつあり,ARPUも長期的な視野に立てば大幅な拡大を望めないからだ。
事実,ARPUは2000年をピークに下降線をたどっている。しかもソフトバンクとイー・モバイルの新規参入による料金競争の進展で,その落ち込みは激しくなってきた(図1)。これまで値下げに慎重だったNTTドコモとKDDIが基本料半額と家族内定額を導入したことで,料金競争はいったん収束した感がある。当面はHSDPAによる高速化でデータ通信のARPU(データARPU)の増加も期待できる。
しかし,音声はさらなる料金競争が再燃する可能性が否定できず,いずれは音声も完全定額制の方向に進んでいく。データ通信は各社が定額制を導入しており,将来的には定額料金を上限に伸びは止まる。つまり,ARPUは定額料金を上限に,下がることはあっても上がることはない。
約1兆円の減収を他収入でカバーせよ
こうした“内憂”に加え,オープン化という“外患”もある。今後,多様なプレーヤが携帯電話関連事業に参入することで競争環境が厳しくなることが予想されるからだ(図2)。それはこれまでのような“事業者の参入”ではなく,別の勢力である。
例えば,米国ではアップルがiPhone(端末)とiTunes Store(サービス)の組み合わせで参入してきたほか,フィンランドのノキアは圧倒的な端末シェアを武器に上位レイヤーのモバイル・サービス「Ovi」まで手がけ始めた。事業者から通信インフラを借りて独自ブランドでサービスを提供するMVNOも増えていく。
つまりオープン化とは,事業者がこれまで垂直統合型で自ら提供してきた通信・端末・サービスの各レイヤーに,ほかのプレーヤが参入してくることを意味する。
ほかのプレーヤが市場を拡大できれば既存の事業者にもオープン化のメリットはあるが,そうでなければ同じ規模の市場を分け合うだけである。従来は事業者同士の競争だけを意識していればよかったが,今後はコンテンツ・プロバイダやメーカーといった新規参入プレーヤとも競合することになる。
その主戦場となるのがコンテンツやアプリケーションにかかわるサービス・レイヤーだ。音声通話や基本的なデータ通信にかかわる通信レイヤーでの競争は,料金の値下げが主な差異化ポイントになるため大きな成長は見込めない。だがコンテンツやアプリケーションは新たな収益源となるだけでなく,加入者の囲い込みの効果も期待できる。
各事業者の電気通信事業収入を合計した携帯電話の市場規模は現在,約7兆円。「仮にARPUが年率5%程度で下落していくと,市場規模は2012年度に 6兆円程度まで縮小する。この減収分を補い,さらに増収にまでもっていく必要がある」(野村総合研究所の北・上級コンサルタント)。
そのためには,まず(1)ビジネスの範囲を広げてARPU以外の収入を増やすことである。ただ,それだけでは時間もかかる上に,当たり外れのリスクを負う。このため,(2)ARPUの減少を食い止め,(3)さらに契約数を増やす,という従来の取り組みも並行して進めていかなければならない。