地域別市場では北米も注目だ。この市場では,京セラとカシオ日立モバイルコミュニケーションズの2社がうまく立ち回っている。

 米国では,上位4事業者のうち2事業者が通信方式にCDMA2000方式を採用しており,携帯電話ユーザーの約半分がこの方式に対応した端末を利用する。CDMA2000方式に限定したメーカー別のシェアを見ると,LG電子,モトローラ,サムスン電子が約20%で並び,それに次いで京セラと三洋電機がランキングに顔を出す(図1右)。GSM方式を中心に世界市場の約4割を握るノキアは,わずか1.6%のシェアしか持たない。

図1●データ通信需要の増加などチャンスは到来している<br>欧州でデータ通信利用が急速に立ち上がりつつあるため,日本メーカーの得意領域を生かしやすく,海外進出のチャンスは広がっている。北米などのCDMA2000を導入している市場では,参入しているメーカーが限られ,競争しやすい環境にある。
図1●データ通信需要の増加などチャンスは到来している
欧州でデータ通信利用が急速に立ち上がりつつあるため,日本メーカーの得意領域を生かしやすく,海外進出のチャンスは広がっている。北米などのCDMA2000を導入している市場では,参入しているメーカーが限られ,競争しやすい環境にある。
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 CDMA2000方式を採用する事業者がある国は,日本,米国,カナダ,韓国などGSM方式に比べて少なく,市場規模は比較的小さい。それでも,2007年の端末生産台数は約1億5000万に上る。さらに,CDMA2000方式の端末を得意とするメーカーはGSM/W-CDMA方式よりも少なく,次世代方式に代わっても通信規格の参入障壁がある

 京セラは2007年,北米市場で中堅メーカーとしての地位を確立している三洋電機の携帯電話端末事業を買収した。京セラ自身のCDMA2000方式でのシェアも高く,買収した三洋電機と合計すると約12%に到達してトップ・メーカーの一角となる。

カシオ日立モバイルコミュニケーションズ 大石 健樹 代表取締役社長「“タフネス”武器に米国市場を攻める」
カシオ日立モバイルコミュニケーションズ 大石 健樹 代表取締役社長「“タフネス”武器に米国市場を攻める」
写真:佐藤 久

 加えて,「2006年に防水や防塵といった“タフネス(堅ろう性)”を売りにした端末を米国に投入し,売り上げが増えてきた」(大石健樹代表取締役社長)というカシオ日立コミュニケーションズも北米で存在感を示し始めた。今後は「タフネスをステータスにする層,実務でタフネスを必要とする層に向けて,端末を拡充していく。タフネス以外の軸も打ち出す」(大石社長)と積極展開を図る予定だ。

 米国ではデータ通信市場の立ち上がりは遅れているが,需要が高まる時期は遠からず来る。現在好位置に付ける京セラなどは,そのタイミングに合わせてさらに上位を狙えるだろう。


大決断を下したメーカーが伸びる

 実は日本メーカーの商品力に対する評価は極めて高い。ある外資系端末メーカーの幹部は「高齢化は先進国で共通の課題である。らくらくホンに使われている音声をゆっくり聞ける技術などは,ほかの国のユーザーに受け入れられる可能性が高い」とする。

 一方,劣るのはブランド力と流通網の整備だ。ガートナージャパンの光山主席アナリストは,日本メーカーがこれまで海外で存在感を示せていない理由を「事業者を頼り,メーカー独自の流通網が不十分だった。広告宣伝も足りなかったように見える。高機能な端末なら売れるという意識があったのではないか」と分析する。

 とはいえ,ブランド力の強化と流通網の整備にはコストと時間がかかる。ここ数年で躍進したサムスン電子とLG電子は「売ると決めた地域では,証券アナリストを不安にさせるほど大規模な広告宣伝を行い,同時に流通網を整備した」(情報通信総合研究所グローバル研究グループの岸田重行主任研究員)という。しかもブランドの確立には「最低5年程度はかかる」(ある端末メーカー社員)というのが電機メーカー共通の常識だ。

 海外への進出方法は企業によって違ってくるだろう。自社だけで進出するのはリスクが高いが,成功した際のリターンも大きい。ここ数年で急伸した韓国勢が好例だ。

 海外メーカーとの合弁という方法もある。ソニーはエリクソンとの合弁会社ソニー・エリクソンを設立し,今では世界市場のトップ集団に躍り出た。ガートナージャパンの光山主席アナリストは「エリクソンが構築済みの流通網を使って,ソニーのブランドと商品力を訴求した」とその成功要因を分析する。ソニーは,エリクソンとの合弁で流通網を整備するための時間を買った形だ。

 海外メーカーのブランドを借りるのも一つの方法だ。複数の端末メーカーのトップは,「端末に限らず,基地局やサーバーを含め他社の“黒子”になることも視野に入れている」と語り,他のメーカーへのOEM/ODM供給の可能性を示唆する。このやり方なら,利益率は高くないが低リスクで海外市場に端末を販売できる。

 まずは海外にいつ,どうやって進出するか,その決断が日本のメーカーの課題となる。