成長期から成熟期に向かう市場環境の変化を見越して,端末メーカー各社は手を打ち始めている。ソフトウエアの共通化によるコスト圧縮などの対応策は,一定の成果を上げている。

 だが,中長期的には海外メーカーの国内進出などにより,さらなる競争の激化は必至だ。端末メーカーは国内市場で生き残るため,また海外市場に進出するため,次の一手を打つ必要がある。その際には事業者に頼らずに,独自性を打ち出した製品を開発できることが鍵になる。

国内市場は少量多品種路線に

 国内市場における,ここ数年間の少量多品種化は著しい。NTTドコモ,KDDI(au),ソフトバンクモバイルの上位3事業者が販売する機種数を見れば,その傾向は一目瞭然だ。2003年度(4月~翌3月)の販売機種数は,3事業者の合計で68機種だったが,モバイル番号ポータビリティによる事業者間競争が過熱した2006年度には126機種に増加した。競争が沈静化した2007年度は機種数が減少したが,それでも111機種ある(図1左)。

図1●増え続ける機種数が端末メーカーを苦しめる<br>年間販売台数が約5000万台の市場に,1年間で100機種以上が発売されている。1機種当たりの平均販売台数は約47万台。機種数とシェアには相関が見える。
図1●増え続ける機種数が端末メーカーを苦しめる
年間販売台数が約5000万台の市場に,1年間で100機種以上が発売されている。1機種当たりの平均販売台数は約47万台。機種数とシェアには相関が見える。
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 機種数が急増したのは,「携帯電話の普及率が上がるにつれて,腕時計のようにユーザーの好みが細分化されてきた」(パナソニックモバイルコミュニケーションズの星敏典取締役副社長)との認識が携帯電話事業者や端末メーカーに浸透したからだ。これといった特徴がない“最大公約数”的な端末は,ユーザーからそっぽを向かれてしまう。「かつては1機種で100万台以上売れる端末があったが,今ではそうした機種はほとんどない」(星副社長)のが現状だ。

 その結果,特定のユーザー層に向けて作り込んだ端末をたくさん並べて,ラインアップのバリエーションを増やす動きが進んだ。メーカー別の販売台数シェアを見ると,高齢者向けの「らくらくホン」をヒットさせた富士通を除くと,機種数とシェアには密接な関係があることが分かる(図1右)。

機種数増加で1機種当たりの売り上げ減少

 機種数の増加で,端末メーカーは採算を取りにくくなっている。2003年と2007年を比較すると,1機種当たりの平均販売台数は機種数が増えたことで 4割弱も減った。国内の年間総販売台数は,2007年からの分離プラン導入もあって今後大きな伸びは期待しにくい。1機種当たりの売り上げを伸ばすのは極めて困難だ。

富士通 佐相 秀幸 経営執行役モバイルフォン事業本部長「ユニバーサルデザインにこだわったもの作りを」
富士通 佐相 秀幸 経営執行役モバイルフォン事業本部長「ユニバーサルデザインにこだわったもの作りを」

 その一方で,端末の高機能化は止まらない。特に,ソフトウエアの開発規模は指数関数的に大きくなっており,「NTTドコモ向け端末のソフトウエアは500万行もある。プログラムの管理が大変になり,企業向けコンピュータ・システムの部門から大規模システム開発の専門家を引っ張ってきた」(富士通の佐相秀幸経営執行役モバイルフォン事業本部長)ほどだ。

 とはいえ,端末メーカーは機種数を減らすわけにはいかない。出荷数の減少に直結するからだ。端末メーカーは“少量多品種”時代に向き合うしかない。

 ここ数年,端末メーカー各社が力を入れているのが,開発コストを削減する取り組みである。従来は1機種の開発に数十億円かかっていたが,「新規開発する部分を減らすことで,数億~十数億円で開発できる例が増えている。数十億円もかかる開発は,現在ではプラットフォームやOSを変更するような大きな作業になった場合だけ」(シャープの長谷川祥典常務取締役通信システム事業本部長)。

 開発効率を上げた結果,少量多品種でも利益を出せる事業構造への転換が進み始めた。そのキーワードは「共通化」。具体的な取り組みは大きく3種類に分類できる(図2)。

図2●少量多品種でも端末を安く作る工夫が進む<br>事業者が主導する取り組みと,メーカーが主導する取り組みがある。
図2●少量多品種でも端末を安く作る工夫が進む
事業者が主導する取り組みと,メーカーが主導する取り組みがある。
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 1種類目は,事業者主導による端末プラットフォームの共通化である。プラットフォームとは,携帯電話端末を構成する部品やソフトウエアのこと。異なるメーカー間でこれを共通化して,開発コストを抑える。

 例えばNTTドコモの端末用OSは,英シンビアンが開発した「Symbian OS」と,オープンソースの「Linux」に集約した。その上で動くミドルウエアも,共通化できるものはNTTドコモと端末メーカーが共同開発した。

 KDDIも,全端末で「KCP」や「KCP+」と呼ぶ共通の端末プラットフォームを使っている。KDDIの高橋誠取締役執行役員常務コンシューマ事業統轄本部長は「端末メーカーの採算が悪化し,携帯電話端末事業から撤退されたら困るという危機感がある。端末メーカーの開発負担を小さくしたいと考え,KCPを提唱した」と開発の経緯を振り返る。