2種類目が,端末メーカーによる取り組みである。異なる端末の部品を共通化する,既存の端末を基に新機能を追加して新機種とするといった手法がある。 NECの山崎耕司・執行役員モバイルターミナル事業本部長によると「今では,従来の1機種分プラスアルファの開発費で,2機種作れるようになっている」という。

日立製作所 岡田 実 コンシューマ事業グループ ソリューションビジネス事業部 携帯電話本部長兼営業部長「カシオとの連携はリスクヘッジになる」
日立製作所 岡田 実 コンシューマ事業グループ ソリューションビジネス事業部 携帯電話本部長兼営業部長「カシオとの連携はリスクヘッジになる」
写真:中島 正之

 最後の取り組みが,複数のメーカーが共同で端末を開発する例。その先駆者が,カシオ計算機と日立製作所が2004年に設立した合弁会社,カシオ日立モバイルコミュニケーションズだ。端末の企画は親会社のカシオと日立がそれぞれ別に行うが,ソフトウエアや部品など共通基盤の開発は合弁会社が受け持つ。日立製作所コンシューマ事業グループソリューションビジネス事業部の岡田実・携帯電話本部長兼営業部長は,「共通化した基盤の上に,我々のAV技術などを乗せて“日立風”の味付けをしている」と開発体制を説明する。

 これ以外にも,NECとパナソニック モバイルコミュニケーションズは,チップ開発に「アドコアテック」,ソフトウエア開発に「エスティーモ」という合弁会社をそれぞれ設立し,部品やソフトウエアの仕様を共通化している。

 事業者もメーカーも,共通化への取り組みは始まったばかり。さらに効率化できる余地がある。シェア下位の日立製作所も「収支はマイナスではない。販売台数を維持して1台当たりの開発費を減らせば,その分だけ黒字化できる」(岡田本部長)という。

端末アーキテクチャのさらなる見直しも

 端末プラットフォームのアーキテクチャを見直すことで,コスト削減の障害になっていた事業者の垣根を取り払おうという動きもある。NTTドコモが開発を進める新アーキテクチャでは,事業者に依存せずにどの端末も搭載すべき「グローバル・プラットフォーム」と,事業者固有の機能に対応させる「オペレータパック」を分離。メーカーのコスト削減を手助けする(図1)。NTTドコモの場合,iモードを実現する機能は,オペレータパックに収容する。新アーキテクチャに基づいた端末であれば,メーカーはオペレータパックを取り替えることで,異なる事業者にも適用できる。

図1●NTTドコモが2009年後半に発売する端末に採用予定の新アーキテクチャ
図1●NTTドコモが2009年後半に発売する端末に採用予定の新アーキテクチャ
どの端末も備えるべき共通機能と,携帯電話事業者ごとの独自サービスを利用するための機能を分離する。

 NTTドコモは,まずは現行のLinuxプラットフォームで新アーキテクチャの実現を目指している携帯電話向けLinuxプラットフォームでは,NTTドコモは既に仏フランステレコムや英ボーダフォンと協力関係にある。新アーキテクチャについてもフランステレコムが既に採用を決め,世界規模の端末プラットフォーム共通化がスタートしている。フランステレコムは2008年後半,NTTドコモは2009年後半から新アーキテクチャに対応した機種を発売する。NTTドコモは,Symbian OSなどLinux以外のプラットフォームも同様に,事業者共通の機能と固有の機能を分離したアーキテクチャにするよう検討している。

 国内メーカーにとっては,NTTドコモ対応の端末をこれまでよりも効率的に開発できる可能性がある。海外でもこのアーキテクチャに賛同する事業者が増えれば,海外事業者向けに転用しやすくなりそうだ。

ノキア・ジャパン タイラー・マクギー 代表取締役社長「長期的には日本でもナンバー1を目指す」
ノキア・ジャパン タイラー・マクギー 代表取締役社長「長期的には日本でもナンバー1を目指す」
写真:中島 正之

 ただしこのアーキテクチャには,海外の端末メーカーが日本市場向けの端末を作りやすくなるという側面もある。実際,NTTドコモの辻村常務は「海外メーカーの呼び込みという側面が強い」とする。「以前から,海外メーカーからの端末調達は増やしたかった。しかし現状では,NTTドコモのサービスに対応するためにソフトウエアにかなり手を入れる必要があり,海外メーカーは日本市場に端末を投入しにくかった」(辻村常務)という。

 NTTドコモの端末戦略は,「日本市場のシェアを上げたいという思いは強い。長期的にはトップを目指したい」(ノキア・ジャパンのタイラー・マクギー社長)とやる気を見せる企業にとっては朗報だろう。日本のメーカーにとっては,海外進出がやりやすくなる半面,国内市場での競争相手が増えることになる。

オープン化の波が迫る

 新アーキテクチャの延長線上に,端末プラットフォームの「オープン化」がある。ここで言うオープン化とは,パソコンのようにユーザーが自由に携帯電話端末をカスタマイズするというアイデアだ。発売時に組み込むアプリケーション・ソフトウエアを少なくし,ユーザー自身が好みのアプリケーションを付加していく。こうなればサービスと端末の開発を分離し,それぞれを並行して開発できる。

 こうした環境を実現する取り組みが進んでいる。例えば,米グーグルが推進するソフトウエア・プラットフォームAndroidがそれだ。NTTドコモもオープン化に前向きな姿勢を見せる。「ユーザーが自由にソフトウエアを追加して,自分好みの “白いケータイ”を作れるよう研究開発部門で検討している」(辻村常務)。

 こうした“完全オープン”な端末では,外部のサービス・プロバイダが,事業者や端末メーカーの違いを意識せずに携帯電話上のアプリケーションを開発できる。ユーザーはそれを自由に選んで利用する。様々なサービス・プロバイダのアイデアが実現しやすくなり,携帯電話でできることは今以上に増える。

 その一方で,オープンなプラットフォームを採用した端末は,事業者もメーカーもサービスをコントロールしにくい。そのため,プライバシー情報の保護やセキュリティの確保,動作の安定性などの面で課題は多い。こうしたジレンマを抱えつつ,事業者と端末メーカーは,共に手探りしながら検討を進めている。

 オープンな端末では,携帯電話に付加価値を乗せる“主役”は,ソフトウエア・ベンダーやWeb事業者になる。端末メーカーが「ハコ売り」にこだわり続けると,パソコンと同様,世界規模でシェアを持つ一部のメーカー以外は利益を出しにくくなるかもしれない。