後藤市長の写真
大分県 臼杵市長
後藤 國利 氏

2008年5月21日に都内で開催された「行財政改革シンポジウム2008」より、大分県臼杵市の後藤國利市長による講演「バランスシートは位置情報 ~円熟(漂流)時代を乗り切るナビをつくる~」の概要をお届けする。(構成:清浦秀人=フリーライター、写真:垂井良夫)

 まず、講演のタイトルである「バランスシートは位置情報」の意味についてご説明します。バランスシートというのは、いきなりそれだけで経営の指標になるようなものではありません。「あなたの団体のいる位置はここですよ。東経何度、北緯何度。ここにあなたはいます」という位置情報をはっきり示すGPS、それがバランスシートです。ですから、正しい方向に向かっているのか、あるいは危うい方向に向かって動いているのか、一枚のバランスシートからは分かりません。

 過剰な期待は禁物ですが、位置情報がなければ、そもそもナビゲーション・システム(ナビ)はできません。ナビを可能にするための最も基本的で重要な情報が位置情報、つまりバランスシートであるということを、まず理解してください。

 また、サブタイトルに「円熟(漂流)時代を乗り切るナビを作る」とあります。現在我々が直面しているこの時代はかつての成長時代を過ぎ、さらには安定成長時代も過ぎ去り、峠を越えてしまった下り坂の時代です。これをよく言えば「円熟した時代」に入ったということです。円熟した時代とは、まさに今我々が直面しているように、何が何だかわからない、漂流して下降し、困り果てているという時代です。

 円熟時代は、臨機応変に動かなければならなりません。これまでのように計画どおりに動けばいい、予算を消化すればいいというような生やさしい時代ではありません。臨機応変にやっていくためには、それなりの「説明」が必要です。その説明をするための最大の資料がバランスシートです。

自治体“経営”の評価は成果と決算で決まる

 成長途上時代は、各自治体が中央からの遠隔操作状態でただ運営するのみでもよかった。責任を取る必要もありませんでした。評価の対象はあくまで計画と予算だけで、手堅く手続きさえして中央(県・国)に出納決算書で説明していればよかった。

 しかし、円熟時代に求められるのは「運営」ではなく「経営」です。経営の評価対象は成果であり決算です。ただ予算を消化するのではなく臨機応変、迅速な執務態度が求められます。必要になるのは手堅い追随力ではなく強力なリーダーシップであり、説明責任も中央ではなく住民に対して発生します。これを実現するためにも、バランスシートが必要となるのです。

 「国の財政は将来に渡って安定している」「人口はすべての自治体で増えていく」などの前提で立てられた計画は邪魔者であっても、決して役に立ちません。あくまで現実を直視し、個々の自治体が各々の身の丈を考えていくことが重要なのではないでしょうか。その中で何をしなければならないかを考えていくには、自ら作ったナビが最も重要なものになります。ナビを作るための基本的な情報が、それぞれの自治体が作成するバランスシートなのです。

 そして、バランスシートは積み重ねて比較することによって、初めて生きてきます。バランスシートを作るのが目的ではなく、今年のバランスシートを作り来年のバランスシートを作る。しかも、それらを同じ会計基準で作成して、やっとバランスシートは生きるのです。

 自治体のバランスシートができたことで、過去のデータとの比較が可能になります。首長なら任期が4年ですから、任期中の「成績表」が明白になり、「何をやってきたのか」がガラス張りになってしまいます。ある意味、恐ろしい成績表なのです。

誰が見ても分かるよう、バランスシートに独自の工夫

 バランスシートを生かすも殺すも、自治体の志(こころざし)次第です。臼杵市の場合、12年前私が市長になった当時は、まさにイエローカードを突き付けられたような財政状況でした。そのイエローカードの自治体を再生するためにさまざまなことを行いましたが、その一つがバランスシートづくりでした。

 国から見ると、バランスシートを自治体の危機情報把握のためと捉えますが、臼杵市のような自治体では「来年の退職金を払えるのか」「同じ借金でも、自分で返さなければいけないものなのか、このあたりのところが一番大きな問題になってきます。同じ借金をするにしても、自分で返さないといけない借金だけというのと、制度として交付税で後年度にそれを補填してくれるという借金とでは、自治体の場合、中味が違います。

図●経営意思を反映した臼杵市のバランスシート
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図●経営意思を反映した臼杵市のバランスシート

 財政担当者だけではなく、各部門の職員全員が「どうしたら自分のところの借金を返済できるのか」「ということを絶えず考えていかないと、自治体の財政は好転しません。そのためにも、バランスシートを誰が見てもわかる工夫が必要です(上図)。一例を挙げると、臼杵市では市債残高のうち償還時に地方交付税での補填が約束されている金額を欄外に注記するといったようなことをしています。

 このように、(統一的なバランスシート作りとは別に)各自治体が何をしたいかという経営意思を反映したバランスシートを作ることも可能なのです。

 

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