企業の人事担当者や管理職の方からよく「自発的,自立的に行動するような人材を育成したい」という話を聞きます。自発的,自立的に行動するような人材とは,「自ら考えて行動する人材」を指しています。

 最近では,相手の自発的な行動を促すための「コーチングスキル」もすっかり浸透しました。リーダーや管理職,後輩を指導する立場の方は,メンバーや部下,後輩に自発的な行動を促すことを,かなり意識していることでしょう。

 しかし,「相手の自発的な行動を促す」ことよりももっと重要なことがあります。それは,「自分自身が自発的な行動を起こす」ことです。今回は,自分自身が自発的に行動を起こすためのポイントを解説しましょう。

チームの目的達成には自発的な行動が欠かせない

 システム開発プロジェクトなどで,複数の人間が集団を形成しチームとして仕事を進めていくうえで,非常に大切な考え方があります。それは,チームの目的達成に向けて,チームメンバー全員が「協働」して相乗効果を発揮していくことです。

 「3人寄れば文殊の知恵」と言うように,個人の力ではできないことも,複数の力を合わせることで可能になります。この時のポイントは,「協力」ではなく「協働」です。

 「協力」は単に力を合わせることを指しますが,協働とは,目的を達成するためにお互いが協力して働くことを意味します。言われたことをやるだけでは良い協働とは言えません。目的達成に向けて,各チームメンバーが自発的に行動することが,相乗効果を発揮し,チームの目標達成につながるのです(図1)。

図1●協働と協力の違い
図1●協働と協力の違い

ActionとReactionのバランスが重要

 自発的な行動のことをここでは「Action」と定義します。これに対して,相手からの働きかけに対してとる行動を,「Reaction」と定義します。

Actionの例

・自分から,顧客に対して提案をしてみる
・自分で考えて,必要となる作業をリーダーに申し出る
・朝,自分からメンバーに声をかける

Reactionの例

・顧客からユーザー教育の依頼があり,それに対して提案する
・リーダーからの指示でレポートを作成する
・相手から声をかけられ,返事をする

 チームのリーダーは,メンバーへのAction,すなわち仕事の指示や依頼,情報のフィードバックなどが多くなります。それに対してチームメンバーは,リーダーからの指示や依頼を受けて仕事を進めることが多くなります。つまり,Actionに対するReactionです。

 これは,リーダーとメンバーの役割から見れば,当たり前のことです。しかし,メンバーの仕事がReactionばかりではどうでしょうか?誰かに言われたことを実行するだけでは,受身的になってしまい,仕事も楽しくありません。さらに,リーダーまたはチームに対する単なる「協力」になってしまうので,チームで仕事をする意味がありません。

 チームが達成すべき目的に向けて協働し相乗効果を出すためには,チームメンバーがActionとReactionのバランスを取りながら仕事を進めることが大切です。ActionとReactionのバランスが取れている職場は,仕事を楽しんでいる人が多く,コミュニケーションも活性化しています。会議ひとつとっても建設的な発言が多く,とても活き活きとしているものです。

 電子メールを例に取れば,新規にメールを作成するのがActionに当たります。このため,新しいメールをどれくらい作成しているのかは,「Actionがしっかり取れているかどうか」の一つの目安になります。実際,自らActionを起こすことが多い人は,新しく作成するメール(自ら発信している情報量)がとても多いものです。あなたはいかがでしょうか。大事なことは,「自分自身でActionを取っているか?」ということを,日々の仕事の中で意識し,再点検することです。