このところ,社内システムを最近オープンソース・ソフトウエアとして公開した企業に話を聞く機会が続けてあった。NTTデータ,TIS,KN情報システム---これらの企業は何を狙ってソフトウエアを無償で公開したのか。その反響はどうだったのか。

「敵に塩を送ることになるのではないか」

 「『敵に塩を送ることになるのではないか』,という声もあった」---NTTデータ 技術開発本部ソフトウェア工学推進センタ部長 冨安寛氏は「TERASOLUNA」を公開する際にたたかわされた議論を振り返る。TERASOLUNAは,NTTデータが開発したフレームワークと開発プロセスである。技術開発や新規事業のために作ってみたソフトウエアではない。NTTデータで1999年から開発を始め,これまで約280の大規模プロジェクトに適用しているソフトウエアと開発プロセスである。NTTデータがオープン系システム開発の標準として現在も使い続けているものだ。

 NTTデータは2007年11月に「TERASOLUNA Server Framework for Java(Web版)」と「TERASOLUNA Client Framework for Ajax(マスカット)」をオープンソース・ソフトウエアとして公開。以後,2007年12月には「TERASOLUNA開発プロセス」,2008年1月に「TERASOLUNA Server Framework for Java(リッチ・クライアント版)」,「TERASOLUNA Batch Framework for Java」を公開してきた。そして2008年7月14日,.NET Framework向けのフレームワーク「TERASOLUNA Clinet Framework for .NET」および「TERASOLUNA Server Framework for .NET」をオープンソース・ソフトウエアとして無償公開した(関連記事)。「TERASOLUNA Server Framework for Java」の場合で1万5000ステップという規模だ。

 公開の狙いは,システム構築ビジネスとサポート・ビジネスの拡大だ。TERASOLUNAを公開することで,ユーザーにとっては特定のベンダーに縛り付けられる「ベンダー・ロックイン」の恐れが軽減される。特に「政府や自治体などの受注にプラスに働くという期待があり,公共系システムを担当する部署は賛成した」(NTTデータ冨安氏)。またTERASOLUNA自体は無償だが,採用する企業が出てくればそこにサポート・ビジネスの機会が生まれる。

 ただし懸念もあった。冒頭に紹介したように,公開することで自社の技術的優位性が揺らぐのではないかという恐れだ。TERASOLUNAはNTTデータにとって「長年培ってきたノウハウ」だからだ。「本当に経営判断だった」と冨安氏は振り返る。

 最初にソフトウエアを公開してから半年,実際の反響はどうだったか。

これまで取り引きのなかった企業から問い合わせ

 「これまでNTTデータとの取り引きがなかった企業からの問い合わせが来るようになった」と冨安氏は言う。すでに多くの企業はフレームワークを導入しているが,社内にいくつものフレームワークが混在している企業も多い。「フレームワークの統一を検討している企業がその候補として検討している」(冨安氏)。まだ契約には至っていないが「近々成約するかもしれない」(同)。

 「懸念していた,競合他社に利用されるような事態は今のところない」(冨安氏)。大手インテグレータはすでにフレームワークや開発標準プロセスを持っている。ただ,中堅のシステム・インレグレータから「TERASOLUNA」を教えて欲しいという問い合わせが来ているという。

 オープンソース化のための作業工数もそれほどかかっていないという。2008年7月に公開した「TERASOLUNA Clinet Framework for .NET」および「TERASOLUNA Server Framework for .NET」の場合,オープンソース化に要した作業工数は10人月ちょっと程度だったという。「コードの公開によってセキュリティ・ホールが見つけられやすくなる」という恐れについては「社内での実績も多かったため,それほど心配はなかった。仮に見つかったとしても,それはフレームワークの質的向上につながるもので,むしろ肯定的に受け止めたいと考えてる」(NTTデータ技術開発本部ソフトウェア工学推進センタ 塩谷幸裕氏)という。

 現在のところ,オープンソース化の収支は「プラスマイナスでいえばプラス」(NTTデータ 冨安氏)というのが同社の評価である。