T-Engineは,オープンな考えに基づいて作られている標準開発プラットフォームであり,ハードウエアアーキテクチャであるT-Engineボードと,その上で動作するリアルタイムOSであるT-Kernelとで構成されています。システムアーキテクチャであるT-Engineボードを標準化することにより,チップアーキテクチャに左右されず,あらゆる応用に対応できるよう考えられています。

 今回は,T-Engineボードの仕様を含めたハードウエアに関連する例題を取り上げます。

 例題1は,標準T-Engineボードの仕様に関する基本的な考え方に関する問題ですので第一区分になります。例題2は,解析の能力が要求されますので,第二区分からの出題となります。

例題1 テーマ:標準T-Engineボードの仕様

【問題】
標準T-Engineボードの仕様の説明として間違っているものを,以下の中からすべて選べ。

【選択肢】

  1. 標準T-Engineボードが対象としているCPUは,32ビットRISCプロセッサである。クロック周波数はCPUごとに個別に決定されるため,標準T-Engineボードの規格としては規定されていない。また,バスに関してもそれぞれのCPUごとに使用可能なバスの規格が異なるため,標準T-Engineボードの規格では定められていない。
  2. 標準T-EngineボードはUSB,PCMCIA,SIMカードインタフェースを備えていなければならない。
  3. 標準T-Engineボードの規格では,ボードサイズ,コネクタ形状,コネクタ位置が定められている。また,拡張コネクタに関しても形状,位置が定められており,標準T-Engineボード用の拡張ボードであればすべての標準T-Engineボードに接続することができる。
  4. 標準T-Engineボードの規格では,LCDタッチパネルを標準で接続可能である。これは,標準T-EngineボードのターゲットアプリケーションのひとつがPDAなどの端末機器であり,GUI開発などを容易に行えるようにするためである。

正解(マウスでドラッグして文字を反転させてください)= 1,3

【解説】
 選択肢1は,間違いです。

 T-Engineの特長は多様なCPUへ展開できることです。RISCプロセッサに限定する必要はありません。「T-Engineハードウェア仕様書」(TEF010-S001-01.01.02/ja)では,CPUボードについて以下のように定義しています。

「CPUボードは,単体で動作可能な標準ボードで,32bit CPU,メモリ,RTC,電源制御機能等で構成する。」

 また,標準T-Engineボードの規格ではバスの規格に関する詳細は決められていません。

 組込み機器では,汎用の周辺装置を接続して機器を構成することはほとんどなく,製品を製造する時点で固定的に周辺装置が決定されます。このため,汎用的にバスを標準化するのではなく,最適化を優先して規格が決められています。

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 選択肢2は,正しい説明です。

 標準T-Engineボードの規格は,PDAなどを応用ターゲットとして決められていますので,USB HOSTインタフェースとPCMCIAソケットを標準搭載するものと規定しています。

 これらのインタフェースはμT-Engineボードの規格には含まれていません。μT-Engineボードは小型の制御機器への応用を前提として設計されているためです。ただし,μT-Engineボードも拡張可能なように,CFカードやSDカードなどのインタフェースが搭載されることになっています。

 SIMカードインタフェースは,標準T-EngineボードとμT-Engineボードの両方に搭載されており,eTRONインタフェースとして使用します(写真1写真2)。

写真1●μT-Engineボードに実装されたSIMカードインタフェース
[画像のクリックで拡大表示]
写真2●eTRONカードのコネクタ面
写真2●eTRONカードのコネクタ面
[画像のクリックで拡大表示]

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 選択肢3は,最後の「標準T-Engineボード用の拡張ボードであればすべての標準T-Engineボードに接続することができる」という部分が間違いです。

 T-Engine規格によってボードの物理形状やコネクタの位置などが定められていますが,選択肢1の後半にもあるように,それぞれのCPUごとに使用可能なバスの規格が異なるため,拡張バスについても規格は統一されていません。

 T-Engineの規格としては以下の点だけが決められています。

  • CPUボードと拡張ボードの間は,140ピンの拡張バスコネクタにより接続する。
  • 拡張バスの信号は,CPUのバス信号(データバス,アドレスバス,各種制御信号)をバスバッファを介して接続する。
  • T-Engineの共通仕様として133-136ピンをVBAT(電圧:5.0V±5%入力),137-140ピンをGNDとする。
  • 他のバス信号のピンの割当ては,各CPU毎に任意とする。

 このため,異なるCPUの拡張ボードをそのまま接続してしまうとハードウエアが壊れてしまう可能性があります。そこで,T-Engine用の拡張バスに使用するコネクタは,別のCPU用の拡張ボードが誤挿入されないようにした,誤挿入防止キー付きのコネクタと決められています(図1)。

図1●拡張コネクタの誤挿入防止キー割り当て(「T-Engine拡張ボード設計ガイドライン」P.11から抜粋)
図1●拡張コネクタの誤挿入防止キー割り当て
(「T-Engine拡張ボード設計ガイドライン」P.11から抜粋)
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 詳細は「T-Engine拡張ボード設計ガイドライン」(TEF010-S008-01.00.00/ja)を参照してください。

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 選択肢4は,正しい説明です。

 標準T-Engineボードは,応用ターゲットとして携帯情報機器が想定されています。

 このため,人が操作する部分の機能を開発しやすいように,LCDインタフェースとタッチパネルインタフェースを前提とした設計になっています。一方,μT-Engineボードは各種装置のコントローラが主な応用ターゲットとなりますので,LCDインタフェースとタッチパネルインタフェースは必須ではなく,任意となっています。

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 本例題では「間違っているものを,以下の中からすべて選べ。」となっていますので,正解は1と3となります。

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 ソフトウエアの開発において,T-Engineのハードウエア仕様の詳細を頻繁に参照するということはあまりありません。

 しかし,T-Engineのハードウエア仕様について一通り理解しておくことで,T-Engineがどういった分野に応用できるかなどを判断するための材料とすることができます。ソフトウエア技術者であっても,T-Engineのハードウエアの仕様についても一読しておいたほうがよいでしょう。