ICタグ導入を進める欧米の小売業者への誤解はいまだに多い。「欧米でICタグを導入する主目的は、流通過程や店舗で多い盗難を防ぐため。盗難が少ない日本で導入するメリットは薄い」というものだ。

 果たして本当だろうか。ウォルマートや納入業者から、それが主目的だという意見はまず聞かれない。

 店頭での万引きをICタグで防ぐ効果はない。個品には付いていないからだ。

 納入業者から店舗への流通過程のなかでは、小売業者の物流センターと納入業者間で盗難が多いという。多様な物流業者がかかわるためだ。ここでの盗難はウォルマートの損失にならない。届いた商品が足りないとき、ウォルマートはその分の料金を支払わない。ウォルマートが納入業者のためにICタグに投資することはない。

 しかも大手納入業者の場合は、物流センターへの納品に「信頼性の高い物流システムを構築しており、盗難によるロスはほぼ無視できる」(ある納入業者)という。

 中小の納入業者にとっては盗難ロスを減らせるメリットは大きい。ドアノブや鍵を製造する米ハンプトン・プロダクツ・インターナショナルCIO(最高情報責任者)のブライアン・ミルサップ氏はいう。「配送ミスに関する小売業者との交渉担当者を専任で置いている。当社の出荷時と、物流センターの入荷時でICタグ・データを突き合わせれば、交渉の負担を減らせる」。ところがウォルマートはメリットの薄い物流センターへのシステム展開を中断している。「入荷時のICタグ・データをほしいと3年間言い続けているが、いまだにもらえない」とミルサップCIOは嘆く。