ウィルコム(旧・DDIポケット)の熊井勉システム統括部長
ウィルコム(旧・DDIポケット)の熊井勉システム統括部長。手にしているのは、2008年7月11日に発売したばかりのウィンドウズ・ビスタ搭載の端末「WILLCOM D4」。国内でPHSサービスを自力で提供する会社は同社だけになったが、通信品質の改良に加え、魅力的な端末や料金メニューを次々と打ち出し、同年6月末時点で461万の契約数を誇る。

 「競合の携帯電話サービス各社と比べると、当社のIT(情報技術)部門は役割が多い。競合他社では、携帯電話サービスそのものを支えるシステムと、会計や営業などの業務システムとで、担当部門を分けているのが普通だ。ところが当社はシステム統括部が両方を担う。このことを強みだととらえ、全社の業務改革やIT戦略の提案を積極的にしていく」

 今や日本で唯一のPHSサービス会社となったウィルコム(東京都港区)のCIO(最高情報責任者)に当たる、熊井システム統括部長は力強くこう言い切る。KDDIの子会社だった同社は、2004年10月に投資ファンドの米カーライル・グループに買収され、2005年2月にDDIポケットから社名を変更した。

 その後、ウィルコムは着々と契約数を増やし、財務体質も改善されてきた。ソフトバンクの躍進でこの1年は新規加入が伸び悩んでいるものの、2008年6月末時点の契約数は461万に達し、社名変更直前の296万を大きく上回る。2005年12月に発売した「W-ZERO3」などのヒットで、ウィルコムは特にスマートフォン分野で一定の地位を築いてきた。2008年7月11日にウィンドウズ・ビスタを搭載した新製品「WILLCOM D4」を発売し、スマートフォンに力を入れ始めた携帯電話各社を迎え撃つ。

 ウィルコムに1996年に転職してきた熊井氏は、1995年に開業した同社の歴史をこう振り返る。「(KDDIの子会社の)DDIポケット時代は、業績が思わしくなかったこともあって、PHSサービスを支える通信系のシステムに投資が集中しがちで、業務系のシステムには投資しにくかった。ウィルコムになって経営方針が変わり、社員が働きやすい環境作りにも注力するようになり、業務系のシステムにしっかり投資できるようになった」

 今はちょうど、会計など業務系のシステムの刷新が一段落したところ。熊井システム統括部長は次のステップとして、ITスタッフの利用部門に対するコミュニケーション能力の強化、IT部門の業務プロセスの形式知化、などに力を入れる意向だ。次世代PHSサービス「WILLCOM CORE(コア)」を2009年に開始する認可が総務省から下りたため、これを生かす知恵もひねっている。例えば、通信設備を持たずにPHSサービスを提供したいと考える会社向けに、ウィルコムのサービスを多様な切り口で貸し出す機能を検討している。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・うちはモバイルの会社なので、社内向けシステムの開発であってもモバイル活用を前提に考えるようにしています。例えば、セキュリティーを強化するアイデアを考える時も、単に情報のやり取りを規制するのではなく、(情報をどこでも利用できるようにする)利便性もしっかりと検証します。そうした一種のアグレッシブさを、経営トップから求められます

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・私はもともとコンピューターメーカーのSE(システムエンジニア)で、1996年に当社に転職してきました。そのころのIT業界は、多くの人が「俺はこの道で生きていくんだ」とすごくプライドを持っていました。ところがだんだんITがコモディティー化されて、輝きを持って活躍している人が減ってきました。いまでもプライドを持ってITの仕事をしている人に会うと、次元の高い議論ができてすごく刺激を受けます。IT業界全体がもう一度、かつての気概を取り戻すと嬉しいです

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日経ビジネス
・日経情報ストラテジー
・日経コンピュータ
・日経コミュニケーション

◆最近読んだお勧めの本
・『ザ・ゴール』(エリヤフ・ゴールドラット著、三本木亮訳、ダイヤモンド社) 前の会社にいた20代のころ、毎月百数十時間も残業していたのに、向上心がすごく強くて、たくさんの資格を取得していました。当時、何度も読み返して、刺激を受けました

・村上春樹の作品は、新作が出るたびに必ず読みます。人間の本質に触れることができるような気がするせいか、どの作品も読んでいてすっと内容が心に入ってきますね

◆ ストレス解消法
・ジムに行ったりして、筋トレやストレッチを週に2~3回やっています。タイ式や英国式など世界各国のいろんなやり方のマッサージも好きで、これもストレス解消にいいですね