みずほ銀行は2007年10月、「AIX」で稼働していた基幹系システムをLinuxに移植すると同時に、UNIXサーバー104台を20台に集約するプロジェクトを完了させた。狙いは保守費の削減。業務アプリケーションの修正を最小限に抑える、動作検証を徹底するなどのリスク削減策が奏功し、70億円を投じた開発に成功した。

 投資額70億円、開発工数3000人月に及んだプロジェクトの最大の特徴は、絶対止められない銀行の基幹系システムにLinuxを採用したことだ。

 インターネットバンキング、テレホンバンキングなど、トラブルが顧客サービスに直接影響を来すチャネル系システムのOSを「AIX v4.3」から「SUSE Linux Enterprise Server 9」に刷新。アプリケーションは、業務ロジックに一切手を加えず最低限の修正にとどめた。同時に、日本IBM製UNIXサーバー「RS/6000」104台を、同社製メインフレーム「eServer zSeries 990」など大型サーバーを中心に20台まで集約した(図1)。

図1●みずほ銀行のチャネル系システムのハードウエア/ソフトウエア構成インターネットバンキングなど主要アプリケーションをLinux上に移植すると同時に、 104台のサーバーを20台に集約した
図1●みずほ銀行のチャネル系システムのハードウエア/ソフトウエア構成
インターネットバンキングなど主要アプリケーションをLinux上に移植すると同時に、 104台のサーバーを20台に集約した
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 みずほ銀行は、なぜLinuxに目を付けたのか。萩原忠幸執行役員IT・システム統括部長は、「高止まりしていた保守コストの削減が至上命題だった」と明かす。

3年ぶりに新技術の本格導入を検討

 みずほ銀行がチャネル系システムの刷新を検討し始めたのは、2003年春のこと。「TCO(総コスト)の削減に新技術を活用できないかと考えた」(IT・システム統括部プロジェクト推進第二チームの加藤昌彦次長)。

 当時は、1999年末から2004年末の5年間にわたる勘定系システム統合プロジェクトが、終盤に差し掛かったところ。“ポスト勘定系統合”の検討に入った段階である。

 2002年4月の合併時に大規模なシステム障害を起こした経験から、IT部門は勘定系の統合に全精力を注いでいた。安定稼働を最優先に、慎重に開発を進めていたのである。その副作用として、新技術の積極的な活用ができずに、システムは老朽化が目立つようになっていた。保守運用にかかるコストが膨らみつつあったのだ。

 勘定系統合が終わったら、すぐにでも新技術の活用に踏み切りたい。こう考え、準備に着手した。ただしこの時点で、IT部員とシステム子会社「みずほ情報総研」の銀行向け技術者の多くは勘定系統合にかかわっており手が離せない。そこで新技術の調査は、加藤次長をはじめ一部の企画要員を中心に1年がかりで取り組むことにした。

 社内に100前後あるシステムのうち、目にとまったのは、ハードがサポート切れを迎えるチャネル系システムだった。最新機種に刷新するには、移行費用などを含めて90億円近くかかることが判明。この費用をできるだけ減らしつつ、保守運用コストを削減する手段を考えた。

12の提案からLinuxを選択

 チャネル系システムは勘定系システムと連携しながら入出金データを扱うだけに「トラブルは許されない」(加藤次長)。しかも24時間稼働が原則だ。インターネットバンキングなどの利用拡大に伴う拡張性も必要である。2004年に入って、これらの要件を同時に満たすシステム構成の提案を、日本IBM、富士通、日立製作所、伊藤忠テクノサイエンス(当時)の4社に依頼。合計12種類の提案を受けた。

 行内の評価が最も高かったのは、Linuxを搭載したメインフレームを採用するという日本IBMの提案だった。サーバーを統合できるのでハードの保守コストが減らせる。Linuxならソフトの保守コストも削減できる。アプリケーションをAIXからLinux上に移植すれば、将来的にハードウエアの選択肢が広がる。「IBMがオープンソース(OSS)の推進に積極的なのも魅力だった」(加藤次長)。

 ただし、銀行システムに求められる信頼性をLinuxがクリアできるかは不安が残る。日本IBMの山本明厚先進システム事業部OSS&Linux事業推進部長は「24時間の連続稼働が要求される、これだけの規模のシステムにLinuxを採用するのは世界でも例がなかった」と説明する。

 そこで、みずほ銀行は2004年春から、Linuxの採用によるリスクを1つずつ解決する作業に着手(図2)。使えるメドがついてから、日本IBMの提案を採用するかどうかを決めることにした。

図2●Linux導入に伴うリスク削減の取り組み
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