菊地 倫子、上條 圭
After J-SOX研究会 運営委員
NEC コンサルティング事業部


 連結経営が目指すものは、グループ全体での企業価値の向上である。そのためには、各グループ企業や各地域の特性を最大限に活用できるように、グループ全体の理念・戦略に基づいて各企業が活動できる体制が求められる。内部統制の整備で「見える化」された業務ルールなどを活用し、グループ全体での業務標準化・共通化など、経営基盤を整えることが重要である。

連結経営が目指すもの

 経済のグローバル化により、様々な形態でのM&A(合併と買収)が発生しており、資本提携による企業グループ間の競争は激化するばかりである。こうした環境に勝ち抜くうえで、ビジネスの実態を単独ではなく連結でとらえ、全体感をもって機動的に対応することが必須要件になってきている。

 振り返ると、1990年後半の“会計ビッグバン”で実施された、連結中心の考え方に基づく会計制度変更から約10年、企業は様々な制度変更に対応してきた。2008年には四半期決算や決算日程の短縮も求められ、もはや経理部門だけでは対応しきれない範囲に広がってきている。

 日本版SOX法(金融商品取引法の「内部統制報告制度」、以下J-SOX)への対応も、財務諸表を切り口としたリスク・アプローチであるが、その分析対象は決算プロセスのみならず、販売や購買など業務プロセスそのものに及んでおり、いわば基幹業務そのもののあり方が問われているのである。

 企業には、多業種・多国籍にわたるグループの業務をマネジメントできる経営の仕組みを構築することが求められている。“グループ最適化”を目指すグループ全体の理念・戦略に基づき、グループ企業や地域の特性を最大限に活用するための基盤を整備する必要があるのだ。

連結経営上の課題を解決のための経営基盤

 事業のグローバル化が進むなかで、J-SOX対応をきっかけに、企業では以下のような連結経営上の課題が顕在化することが想定される。

(1) グループ経営管理基盤の不備
 全社的内部統制、IT統制などの評価の結果、特に子会社の脆弱な管理体制が明らかになることが考えられる。業務手順レベルのものから、予算管理、意思決定プロセス、親会社への報告、コンプライアンスなど、多岐にわたる課題が発生しうる。

(2) フロント業務の非効率
 特に受注・発注といったフロント業務における非効率なオペレーションの顕在化や、内部統制強化のための追加作業に対する現場の不満増大が考えられる。これは、売上高、売掛金、棚卸資産についての内部統制評価を行う企業では、“情報の入り口”である受注・売上計上業務や発注業務の厳格化が進むことが予想されるためである。

(3) 包括的なリスクマネジメントの不備
 財務報告リスクへ対応するJ-SOXの延長として、様々なリスクを対象にしたリスクマネジメント、特に「会社法」を意識したリスクマネジメント体制を確立すべきではないか、という声が経営者から発せられる可能性がある。これにより、意思決定プロセスやコンプライアンスなど、より幅広い領域におけるリスク評価が必要となる。

 ここに挙げたような、J-SOX対応を進めるなかで明らかになった連結経営上の課題を解決するためには、グループ全体の理念・戦略に基づき、グループ企業の持つ力を各々の分野で最大限に高めつつ、例えば下記のような目標を立てて経営基盤を整備する必要がある。

(1) グローバル規模で顧客の価値創造に寄与する
・国や地域にかかわらず、均質なサービスを提供する
・時差や距離を、サービス提供上のハードルとしない
・地域/国ごとの特性や時差などを逆利用し、自社のグループ総合力に結びつける

(2) グローバル全体のリソースを最適活用する
・グローバル戦略に基づいて、グループ各社の資金、人材、有形・無形資産を国や地域の枠を超えて移動・活用できるようにする

(3) グローバルでビジネスのリスクを最小化する
・国や地域によって異なる会計制度、法規制、商慣習に適応するとともに、グループとして守るべきグローバル標準に準じたオペレーションを行う

(4) グローバルでグループ全体をあたかも一つの事業体のように把握する
・企業、組織、距離、会計制度、通貨、言語の違いを超えて、同じ尺度、同じ定義、同じタイミングで経営情報を共有する
・企業、地域が異なっても、権限や立場に応じて同じ情報にアクセスし、同様の判断を下せるようにする

 以上の目標を実現するための、グローバル連結経営基盤のイメージを図13-1に示す。

図1●グローバル連結経営の基盤
図13-1●グローバル連結経営の基盤
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企業価値向上に寄与する取り組みへの第一歩

 以上の課題やあるべき姿に対し、これまで体系だった検討が十分になされてこなかった企業は多い。今回のJ-SOX対応は、そのきっかけを与えたとも言える。

 まずは経理部門だけでなく、経営管理部門、関係会社管理部門、情報システム部門などを巻き込んだ、グループ全体のあるべき姿やそれに至るステップの検討が必要と考える。ともすると対応手法だけが問題視されがちなJ-SOXだが、各企業はこれを契機に連結経営基盤の整備を進め、企業価値の向上に寄与する改革に向けた一歩を踏み出して欲しい。

菊地 倫子(きくち のりこ)
After J-SOX研究会 運営委員
NEC コンサルティング事業部
日本電気株式会社(NEC) コンサルティング事業部でグループマネージャー、シニアビジネスコンサルタントを務める。中小企業診断士。NECにおいて、ERPパッケージの開発企画/導入を経て現職。内部強化、決算早期化、予算管理制度企画、グローバル連結経営管理制度コンサルティングに従事。

上條 圭(かみじょう けい)
After J-SOX研究会 運営委員
NEC コンサルティング事業部
日本電気株式会社(NEC) コンサルティング事業部でエキスパート、ビジネスコンサルタントを務める。米国公認会計士、日本原価管理士。NEC 経営企画部門にて、アライアンス投資業務などを経て現職。内部統制強化、管理会計改革、経営トップ向け経営情報企画、グローバル連結業績管理などのコンサルティングに従事。