前回の本稿では,ユビキタス特区として札幌市などで実施する「マルチワンセグメントサービス実証実験」のサービスイメージについて解説した。今回は,コンテンツ・プロバイダがこうしたマルチワンセグメントサービスをどう見ているかについて,引き続きIMC Tokyo 2008のコンファレンスから報告する。

端末は携帯電話,“誰でも手軽に”使えるマルチワンセグを目指す

 コンファレンスでは,マルチワンセグメントサービスにおけるコンテンツ・ビジネスの考え方を,デジタルメディア協会(AMD)の役員企業であるインデックスでプリンシパルを務める寺田眞治氏が説明した。

 2011年の地上アナログ放送停波後のVHF帯跡地を利用した次世代モバイル・マルチメディア放送としては,現行の地上デジタル放送方式をベースとしたISDB-Tmm/ISDB-Tsbや米クアルコムが開発したMediaFLO,欧州のDVB-Hなどが提案されている。寺田氏はまず,「コンテンツ・プロバイダは,これらの次世代サービスについて,携帯電話での利用ではなく,マルチメディア・プレーヤーでの利用を想定し,高画質・多機能を目指していると考えている」と説明した。

写真1●マルチワンセグのターゲット端末は“簡単・手軽な”携帯電話
写真1●マルチワンセグのターゲット端末は“簡単・手軽な”携帯電話
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 それに対して,1チャンネルで複数の番組を放送できるマルチワンセグメントサービスや,小出力でエリアを限定して放送するエリア・ワンセグサービスは,「現行のワンセグの発展系であって,携帯電話での利用がベースとなる。誰もが手軽に簡単に扱える端末がターゲットとなる放送」(寺田氏)と対象となる端末や利用イメージの違いを述べた(写真1)。

 それでは,コンテンツプロバイダから見たマルチワンセグサービスにおけるコンテンツ・ビジネスの考え方と言うのはどういったものなのだろうか。マルチワンセグサービスは1チャンネルの周波数帯で13の番組を同時に送信できる。このため,これまで“放送”では扱いにくかった細分化したコンテンツを提供しやすくなる。寺田氏は,マルチワンセグメントサービスで考えられるコンテンツを大別すると,「地域情報系コンテンツ」「専門チャンネル系コンテンツ」「ビジネス系コンテンツ」の3つがある。さらにそれらと連携する形で「視聴者参加型コンテンツ」があるという(図1)。

図1●マルチワンセグメント放送で考えられるコンテンツ案
図1●マルチワンセグメント放送で考えられるコンテンツ案

 コンテンツは,市街地エリアでのリアルタイム視聴を想定した地域情報やエンタテインメント番組,外国人向け番組などが考えられている。またビジネス系では,複数番組を同時に放送できるマルチワンセグサービスの特性を生かして,ニュースや天気予報,株価情報など今まで通信を使って提供することが多かったコンテンツを放送で提供する。これらに加えて,ダウンロード型の配信,さらにEコマースなどによる課金も想定している。

 収益モデルに関して寺田氏は,「地域情報系コンテンツの場合は主に広告モデル,専門チャンネル系コンテンツは広告モデル以外にPPV(ペイ・パー・ビュー)などの視聴者課金,ビジネス系コンテンツの株価情報などでは手数料といった概念も採り入れられる」と述べた。

地域に密着したユーザー囲い込み型のビジネス展開を想定

 ビジネスの展開としては,「携帯電話の通信回線を併用することで,新たな課金方式やメッセージング・サービスが提供でき,ユーザー囲い込み型のビジネスが可能になる」(寺田氏)。

 例えば,音楽番組を想定すると,「携帯電話とコンテンツとしての音楽は相性が良いため,音楽専門チャンネルをCDやDVD,コンサート・チケット販売のポータルとして考えられる」と寺田氏は説明する。具体的には,例えばコンサートのライブ番組のデータ放送部分がポータル・サイトになっていて,番組情報やそのチャンネルのサイト,ECサイトなどの情報が掲載されているイメージだという。

写真2●地域情報系音楽番組でのビジネスモデル案
写真2●地域情報系音楽番組でのビジネスモデル案
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 そうした仕組みを作った上で,「各地域にあるCD/DVDの販売店やレンタル店が放送を使って,自らのビジネスを広げていくビジネス・スキームを展開してもらいたい。一方,レコード会社や音楽系CS放送事業者などのコンテンツ・ホルダーは,放送料を支払ってチャンネルにコンテンツを提供することが可能になる。つまり,地上波放送に参入できる」(寺田氏)とビジネスの展開を説明した(写真2)。

 さらに,地域情報系コンテンツの場合,その地域に特化したイベント情報や映画館情報などの提供が考えられる。例えば,映画会社による地域に密着したシネコンと連携した映画情報番組では,映画情報の提供によるシネコンへの誘導,シネコン入場料のFeliCa決済とクーポン配布による地域店舗への誘導など,シネコンと地域店舗利用の相乗効果に期待が持てる。

 また,地域メディアとしてのマルチワンセグサービスの可能性について寺田氏は,「全国展開しようと考えていたことの中には,地域限定で考えた方がビジネスモデルを作りやすいケースもあることが分かってきた。例えば前述のコンサート・チケットの販売は,全国放送よりも地域放送の方が展開しやすいため,地域密着型のビジネスにフィットする」という。

 ユビキタス特区の実証実験は,「これまでアイディアだけは持っていても何もできなかったことが,実際に放送を利用して実現できるようになる。マルチワンセグサービスの具体化にとって大きな意義を持つ」(寺田氏)と説明した。