今回は,「システム化業務説明書」を作成する際の注意点を紹介しましょう(図1)。

図1●今回説明する範囲
図1●今回説明する範囲

 システム化業務説明書とは,ある「システム化業務」の中で「利用者がシステムに対して行うこと」「システムが利用者に対して行うこと」「システムが内部的に実行する処理」を,「シナリオ形式」で記述した仕様書のことです。

 システム化業務説明書を作成することで,利用者がシステムをどのように利用するのか,システムがどのような振舞いをするのかが明確になるため,発注者と開発者間でシステムの振舞いについて共通認識を持ちやすくなります。

 逆にシステム化業務説明書を作成しないと,システムの振舞いについての認識がずれてしまい,その結果,発注者の期待した動作をしないシステムが構築されてしまったり,業務上意味のない機能を作成してしまい無駄なコストがかかってしまう,といった危険性があります。発注者と開発者間の認識を合わせるという意味で,この工程成果物は必須と言えるでしょう。

3つのシナリオを考える

 図2に,システム化業務説明書の例を示します。このように,あるシステム化業務(図では受注伝票入力)の内容を,シナリオ形式で記述します。

図2●システム化業務説明書の例
図2●システム化業務説明書の例
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 図2の中に記したように,システム化業務説明書を作成するに当たっては,重要なポイントが2つあります。1つは,基本,代替,例外という3つのシナリオを考えることです。

 基本シナリオとは,利用者の目的が達成されるごく典型的なシナリオを,最初から最後まで記述したものです。代替シナリオは,基本シナリオとは別の手段でシステム化業務を完了させるシナリオです。例えば,ある業務を完了させる手段が複数あって,条件によって使い分けている場合は,それらを代替シナリオとして列記します。例外シナリオとは,成功を妨げる条件下でのシナリオや,特定の条件下で実行するシナリオを指します。業務上の例外的なシナリオ,例えば特定の日だけ特別な顧客対応を処理する,といった事態を記述します。

 基本,代替,例外の3つのシナリオを記述することで,あるシステム化業務のすべてのケースを洗い出すことができるので,外部設計工程での仕様漏れを防ぐことができます。

 もう1つは,システム化業務のシナリオを利用者とシステムに分けて記述することです。もう一度,図2を見てください。「利用者のアクション」と「システムのアクション」に分けてシナリオを記述していることがお分かりいただけるでしょう。

 利用者のアクションとシステムのアクションに分けてシナリオを記述することで,利用者とシステムの役割を明確に区別できるので,発注者が実際にシステムを触らなくても,それぞれの役割を確認しやすくなります。