2008年7月4日に,地上デジタル放送と無料のBSデジタル放送のコピー制御方式が「ダビング10」に移行した。これ以外に,東経110度CS放送「e2 by スカパー!」の有料チャンネルのうち3チャンネルが,同日にダビング10に移行した。

 東経110度CS放送でチャンネルを運営する番組供給事業者は,放送番組のコピー制御方式をダビング10に変更するか,コピーワンスのままにするかを自ら決めることができる。ダビング10に移行した3チャンネルのうちの一つである「テレ朝チャンネル」を運営するテレビ朝日は,「視聴者の利便性を考慮し,東経110度CS放送のチャンネルも地上デジタル放送とBSデジタル放送のチャンネルと同様の対応を行うことにした」という。テレビ朝日は地上デジタル放送のチャンネルを自ら運営するほか,グループ会社のビーエス朝日(BS朝日)を通じてBSデジタル放送のチャンネルを保有している。これらの2チャンネルは2008年7月4日にダビング10の放送を開始した。同社はこれに合わせて,テレ朝チャンネルのコピー制御方式も変更することに決めた。

 テレビ朝日などがダビング10の放送を開始した一方で,東経110度CS放送で有料チャンネルを運営する番組供給事業者の大半はコピーワンス放送の継続を選択した。ある番組供給事業者の関係者は,コピーワンスを継続する理由として,権利者団体への配慮を挙げる。ダビング10については,情報通信審議会情報通信政策部会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」で議論され,地上デジタル放送などの無料デジタル放送のコピーワンスに代替するものという位置付けだった。東経110度CS放送で3チャンネルを運営するフジテレビジョンの関係者は,「情通審では,有料チャンネルにおけるダビング10の採用に関する議論は行われなかった」と指摘する。2008年6月19日の検討委員会の第40回会合で,無料デジタル放送へのダビング10の導入については関係者の合意が形成されたものの,有料放送へのダビング10の導入については改めて権利者団体と話し合う必要がある――。フジテレビの関係者は,このように判断している。

 別の番組供給事業者は,権利者との交渉以外にもダビング10を導入するためのハードルがあると指摘する。その一つは,有料チャンネル間のコピー制御方式の整合性の問題である。CSデジタル放送のうち東経124・128度CS放送「スカイパーフェクTV!」ではこれまで,有料チャンネルは原則的にコピーワンス放送で提供されており,コピー制御方式をダビング10が可能なように仕様を拡大する予定はない。しかも有料チャンネルを運営する放送事業者には,東経124・128度CS放送と東経110度CS放送,ケーブルテレビ(CATV)など複数の伝送路で同じ番組を提供しているところが多い。

 このため同じチャンネルでも東経110度CS放送ではダビング10,東経124・128度CS放送などではコピーワンスという状態が起きてしまう。東経110度CS放送の番組供給事業者からは,「同じ番組なのにプラットフォームによってコピー制御方式が異なると,視聴者の混乱を招く可能性がある」(TBSの関係者)という声が上がっている。

将来的な移行を視野に入れる事業者も

 このように大半の番組供給事業者は,コピーワンスを継続する姿勢をみせる。ただし,将来的なダビング10への移行を視野に入れる番組供給事業者は少なからず存在する。例えばフジテレビの関係者は,「東経110度CS放送の視聴者から『ダビング10にしてほしい』という要望が出るのであれば,権利者団体との交渉を開始したい」としている。ただし,いたずらにダビング10への移行を主張すると,コピー制御方式の緩和に神経をとがらせる権利者団体との関係が悪化する恐れがあるため,「権利者の意向をくんで交渉を進めたい」という。交渉を開始するタイミングについては,「ダビング10に対する世論の動向を見て判断する」としている。