家庭用エアコンはここ10年余りで省エネ性能が約4割向上した。機器の効率化が限界に近づく中、「目」と「頭脳」を搭載した新型機が現れた。無駄を省いた効率運転でさらに5~7割の省エネ効果を引き出す。

図1●三菱電機の「新・人感ムーブアイ」と松下電器産業の「いるとこサーチ」
図1●三菱電機の「新・人感ムーブアイ」と松下電器産業の「いるとこサーチ」
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 真夏のある晴れた日、夫と子どもを送り出してから家事を済ませたA子さん。14畳あるLDK(リビング・ダイニング・キッチン)で1人でテレビを見ながらある考えを巡らせていた。「自分だけのためにエアコンを使うのは電気がもったいないけど、この暑さには耐えられない…」。A子さんは後ろめたさを感じつつエアコンのスイッチを入れた。

 夫が知っているかどうかはさておき、こんな悩める主婦の声に応える省エネ型の家庭用エアコンが昨年登場した。松下電器産業の「Xシリーズ」と、三菱電機の「霧ヶ峰ZWシリーズ」だ。両製品に共通するのは、人がいる所だけ温度を調節できること。部屋全体をむらなく冷やしたり暖めたりする従来のエアコンに比べて、消費電力を大幅に抑えられる。

 1つの部屋で人の位置によって温度の違う領域を作り出せる秘密は、人感センサーにある。人が部屋のどの位置にいるか、何をしているかを赤外線を利用して検知するセンサーを室内機に搭載している。

5つの「目」で活動量を4分類,体感温度に合わせて送風

図2●東人感センサーを活用して 自動的に省エネ運転
図2●人感センサーを活用して 自動的に省エネ運転
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 松下電器が昨年11月に発売したXシリーズは、上位機種の場合で5個のセンサーを搭載する。それぞれ上下左右別々の向きに固定されており、決められた領域を監視する。人や物が動いた時に発生する赤外線の波長の乱れを検知し、一定時間内に波長の乱れが何回あったかを基に人の「居場所」と「活動量」を判定する仕組みだ。

 活動量は4段階で評価する。例えばアイロンがけは最も活動量が大きいと判断し、設定した体感温度より2℃低くなるように制御する。反対にテレビ鑑賞は最も活動量が小さいと判断し、同1℃高くする。

 体感温度は薄着が厚着かによっても異なる。そのため、季節によって想定される着衣量を機器にあらかじめ設定してあり、この情報を活用することでさらに消費電力を抑えられる。これらすべての効果を合わせると、暖房時は最大で約65%省エネになるという。

 一方の三菱電機は、床や家具、人など物体の温度を測るセンサーを採用した。縦に8個並んだセンサーが同時に左右に動き、1分間で部屋全体を測定。温度分布を表す熱画像データを作成する。蓄積した熱画像データを解析することで、人がどの位置で何をしているかを判定する。

 居場所は、温度の高さで突き止める。これに対して活動量は、過去の熱画像データとの差を基に判定する。部屋を752の領域に細分化して監視するため、わずか6cm程度の動きも検知できるという。高度な画像処理技術を必要とするが、三菱電機は防犯に利用する画像処理技術を持つ研究部門の協力を得て開発した。

 こうして検知した人のいる位置にぴたりと風を吹き分けられるように、吹き出し口にも工夫を施した。松下電器と三菱電機は、中心から左側と右側でフラップが独立して動く機構にし、部屋の左隅と右隅に同時に風を送れるようにした。

 三菱電機の製品は上下方向にも左右で別々に動かせる。3万2768通りの送風パターンを用意しており、左手前と右奥に人がいるような場面にも対応できる。センサーと気流制御技術の組み合わせによる省エネ効果は最大約50%に達する。