写真●石川 淳氏 プロントコーポレーション 経営企画室経営企画グループ担当マネージャー
写真●石川 淳氏 プロントコーポレーション 経営企画室経営企画グループ担当マネージャー
(写真:吉田 明弘)

 ITベンダーの営業担当者にはもっと、当社の業務を理解しようという姿勢を見せてもらいたい。提案書を見て、「使い回している」と感じることが多く、がっかりすることもある。

 カフェチェーン「プロント」のPOS(販売時点情報管理)システムの再構築を検討していた4年前もそうだった。この案件では、8社のITベンダーから提案書をもらった。

 既存のPOSシステムを構築したSIerや、飲食業向けPOSシステムの構築実績が多数あると聞いていた大手メーカーなどに声を掛けた。会社の規模も実績も申し分ないと思い、優れた提案書が出てくるはずだと考えていた。

 ところが、この期待は裏切られた。いずれの提案書も、最新のPOS端末やソフトウエアの機能の説明に、大半のページが割かれていた。あとは開発技術力に関するアピールばかりだった。

 提案書の内容だけでなく、どの営業担当者の説明も首をかしげるものが多かった。ある大手メーカーの営業担当者は、「当社のPOSシステムは、喫茶店チェーンへの導入実績が豊富です。御社の店舗システムの再構築も短期間で実現できます」と言ってきた。

 「本当にそんなに簡単に物事が進むものか。当社の店舗でどんなサービスを提供しているか、この人は分かっていないだけではないのか」。内心、こう思ったことを覚えている。

 当社の店舗は「昼間はカフェ、夜はバー」という形態でサービスを展開しており、他社の事例をそのまま当てはめることは容易ではない。例えば、時間帯によって、販売する商品メニューが変わる。

 店舗のオペレーションも昼と夜とでは違う。代金の支払い方法は、カフェの時間帯は前払いだが、バーの時間帯は後払いになる。二つのサービス形態に対応できるよう、POSシステムを構築する必要がある。

 このことは、営業担当者が事前にプロントの店舗を実際に利用してみれば、分かることだろう。事前に足を使って調査することもなく、「簡単に導入できます」と言われると、不信感を抱いてしまうものだ。たとえ技術力がどんなに高いと分かっていても、システム再構築のような大きな仕事を任せようという気にはなれない。

 ちょっと工夫すれば分かることを調べてきてほしいだけである。店舗の細かな業務プロセスまで調べてから提案してほしい、などと言っているわけではない。

 この案件は、結局従来のPOSシステムのネットワーク保守などを担当していたITベンダーに任せた。他のITベンダーよりも、当社の業務に詳しいことが決め手になった。

 現在、付き合っているITベンダーとの関係は重視する。だが、できるだけ迅速に安価に情報化を進めるため、力のあるITベンダーがあれば積極的に仕事を任せたい。

 当社は全国に約190店舗を展開しているが、事業規模でいえば年商160億円の中堅企業。専任のシステム担当者もいない。

 私が所属する経営企画グループの役割は、情報化戦略の企画立案だ。システム開発・運用の実務まで手が回らないのが実情である。

 我々が求めるのは、情報システム部門の代わりとなって、社内を駆け回ってくれる存在。システム開発や運用・保守といった技術的な業務はもちろん、利用部門との調整作業といった役目もお願いしたい。少なくとも“使い回し”精神の企業と付き合う気はない。(談)