前回は,クレジットカード情報の漏えいや不正入手をした当事者も刑事罰の対象とする改正割賦販売法について取り上げた。この法律と,第142回および第143回で取り上げた改正迷惑メール対策法や改正特定商取引法に共通するのは,ねじれ国会の中,圧倒的多数の賛成で可決成立した消費者保護法制である点だ。

 今回は,最近話題となっている消費者庁構想など,消費者行政一元化の観点から個人情報保護対策について考えてみたい。

個人情報保護法に規制を上乗せする改正消安法

 第103回で,ノキア/松下による携帯電話機用リチウムバッテリー電池パックのリコールについて取り上げたことがある。2007年5月14日,改正消費生活用製品安全法(消安法)が施行され,消費生活用製品の製造/輸入事業者を対象に重大製品事故報告/公表制度が始まったが,このリコールは同制度の開始直後の8月に発覚した出来事だった。同じ年11月の第168回臨時国会では,消費生活用製品安全法および電気用品安全法の改正案が全会一致で可決成立した。

 改正電気用品安全法では,2008年11月20日よりリチウムイオン蓄電池が法規制の対象製品に指定される。改正消安法では,2009年4月1日より,長期間の使用に伴い生ずる劣化(経年劣化)により安全上支障が生じ,特に重大な危害を及ぼすおそれの多い品目(「特定保守製品」)を対象に,「長期使用製品安全点検制度」が設けられることになっている。この制度の対象製品に指定されているのは,屋内式ガス瞬間湯沸器(都市ガス用,LPガス用),屋内式ガスふろがま(都市ガス用,LPガス用),石油給湯機,石油ふろがま,密閉燃焼式石油温風暖房機,ビルトイン式電気食器洗機,浴室用電気乾燥機だ。

 「特定保守製品」の製造/輸入事業者(「特定製造事業者等」)に対して課せられる責務の一つに,製品の所有者情報の管理義務がある。ここで注目すべきは,個人情報保護法よりも上乗せの規制が適用される点だ。消費生活用製品安全法と個人情報保護法の主な相違点としては,以下のようなものがある。

  • 特定製造事業者が義務の対象者となる(個人情報保護法と異なり,データ保有件数の要件はなし)
  • 所有者情報の利用目的は,点検通知と製品の適切な保守に資する事項に限定される(個人情報保護法では,利用目的の制限なし)
  • 利用目的の事前公表(個人情報保護法の場合,事後の通知でも足りる)
  • 所有者名簿の作成/保管義務(事業継承などに伴って取得した所有者名簿の保管義務あり)
  • 所有者情報の目的外の取扱禁止(本人の同意なくして目的外の第三者提供は禁止)
  • 所有者情報の安全管理義務(個人情報保護法の場合,管理義務が課せられるのは個人情報でなく個人データ)
  • 勧告前置なし,命令違反は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科あり)

 個人情報をめぐる「過剰反応」への対策としては,小売販売に従事する「特定保守製品取引事業者」に対しては所有者情報の提供の協力責務が,特定保守製品の所有者に対しては所有者情報を提供する義務が課せられている。

 特定保守製品に指定された品目は,経年劣化による重大事故発生率の高い製品だ。だが,指定外の製品でも,重大な製品事故が多発して社会問題化するような事態になったら,法規制の対象となる可能性がある。今回の法改正で,日本のものづくりのあり方も問われている。

個人情報管理とICTは様々な消費者保護行政に横串で関わる

 ところで政府は,各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進する,強い権限を持つ新組織の在り方を検討するために,2008年2月より「消費者行政推進会議」を開催している。4月23日には「消費者庁(仮称)の創設に向けて」,6月13日には「消費者行政推進会議取りまとめ」を発表している。

 この取りまとめの中で,「個別作用法の所管」の検討対象法令を見ると,個人情報保護法のほかに,割賦販売法,迷惑メール対策法,特定商取引法,消費生活用製品安全法,電気用品安全法と,今回名前を挙げた法律がすべてリストアップされていることに気付くだろう。

 消費者庁構想をめぐる論議の中で,個人情報保護法自体が話題となることはあまりないが,個人情報管理は,様々な消費者保護法制に横串で関わるテーマでもある。見方を変えれば,個人情報管理上の不備は,個人情報保護法だけでなく,他の消費者保護法制のコンプライアンスに関わるリスク要因であり,その影響は新設予定の消費者庁に集中することになる。

 さらに忘れてならないのは,ICT(情報通信技術)も,様々な消費者保護法制に横串で関わるテーマである点だ。万一,消費者市場に関わる企業が個人情報とICTの使い方を間違えたら,行政処分,刑事・民事訴訟,社会的信用・ブランドの失墜など,深刻な事態に陥る可能性がある。個人情報保護法が本格施行されたころとは外部環境が大きく変わっていることを,消費者の個人情報を取り扱う企業は特に認識すべきだ。

 次回は,情報ライフサイクル管理上の不備に起因する個人情報漏えい事件を取り上げてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/