著者:林 信行=ITジャーナリスト

 アップルは,発売最初の週末だけで「iPhone 3G」を世界で100万台販売したと発表した(関連記事)。このiPhone 3Gの人気は一過性か,それともこれからも続くのだろうか。

 ソフトバンク表参道店に1500人以上が並んだ7月11日のように(写真1),ワっと盛り上がることはしばらくないだろう。ただし,これからはこうして早くからiPhoneを手に入れた人が,その楽しさや,癖になる使い心地を周りの人々に見せ,それに感化された人々へと,また少しずつiPhoneが広がり続けていく。そのペースはメディアでの評判や,今後,アプリケーション販売サービス「App Store」に登場するコンテンツ,ライバルの動きなどにも大きく左右される。

写真1●発売日にiPhoneのために並ぶ人々   写真1●発売日にiPhoneのために並ぶ人々
ソフトバンク表参道店には1500人の行列ができ,そのすぐ後ろには翌日分に並ぶ人が続いた。東京だけではない全国的な現象なうえに,海外でも20カ国で同様の行列ができた。
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 ただし,アップルは販売ペースが落ちた場合に向けて二の手,三の手まで考えるような企業だ。今回は,アップルの次の展開や,iPhoneを使った新しいビジネスの可能性を推測したい。

ドコモとの提携や法人向けも視野に

 まず,日本で販売ペースをさらに上げる方法として考えられる一つの方法は,噂が絶えないNTTドコモとの提携である。ソフトバンクモバイルの電波が入りにくい地方はもちろん,都心部でも「iPhoneはNTTドコモが販売してほしかった」という意見が相変わらず多い。NTTドコモとアップルが提携すれば,そうした人達の最後の障壁をなくせる。

 ソフトバンクモバイルにとっても,アップルとNTTドコモとの提携が十分に遅ければ,それほど痛手にはならないだろう。iPhoneがすぐにほしいユーザーは既にソフトバンクモバイルに加入しているはずだ。ただし,新たにiPhoneを買うユーザーに選んでもらえるように,ソフトバンクモバイルもNTTドコモも何らかの価値観をつくっていく必要がある。

 またiPhone 2.0 OSの,強みの1つでもある企業向けシステムも無視できないポイントだ。コンシューマ向けの販売が一段落したら,その段階で法人営業が本格的に稼働することは目に見えている。特にアップルは米国だけでなく,日本でも教育機関と密接な関係づくりに成功している。iPhone 2.0 OSでも,教育機関で独自アプリケーションを作って配布する方法などが提案されていることから,教育市場への進出も必至だろう。

特許から見えたアップルの新iPhoneビジネス

 アップルの次の手には,もっと斬新な方法もある。アップルが最近取得した特許の1つも,iPhoneの描く今後の世界の,面白い可能性を提示している。

写真2●アップルの無線LANシステムの特許
写真2●アップルの無線LANシステムの特許
小売店で無線LANデバイス上に商品メニューを表示し,注文を受け,受け渡しの準備ができたことを通知する販売システムの特許を押さえている。
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 その特許とは,2007年12月20日に公開された「US Patent Application #20070291710」。無線LANを使った注文システムに関する特許だ(写真2)。

 行列などができる店内で,無線LAN通信機能を持ったメディアプレーヤー(iPod touch)や携帯電話(iPhone)を使って,店のメニューなどを表示して発注できるようにする。すると店舗にオーダーが入り,商品の準備ができしだい,その知らせが届く。これによってiPod touchやiPhoneのユーザーだけは,行列に並ばずに済むようになる。もちろん,現金の持ち歩きを不要にする,クレジットカード決済のシステムとも結びつくわけで,使い勝手の点で言えば日本のおサイフケータイに勝る部分もある。

 このシステムはインターネット上で既に話題になり始めている。アップルが米スターバックスと組んで,スターバックス店舗限定の楽曲販売サービスを始めていることから,インターネット上では,いかにも本物のようなスターバックスの注文システムの画像が登場している(iPhone + Starbucks)。

 もっとも,この特許の応用先はコーヒーショップだけに限らない。行列ができる,できないにかかわらず,すべての小売業で応用が可能だろう。店舗に置かれたメニューや商品棚と違って,iPhoneのような情報端末でオーダーをする場合には,お勧め商品の情報や「この商品を買った人は,ほかにこんな商品を買っています」といったリコメンドのシステムも実現できる。米アマゾンやアップルがiTunesで展開しているこのような売り方が店舗でも可能になる。これは小売業のビスネスを大きく変える可能性がある。