著者:林 信行=ITジャーナリスト

 初代iPhoneを発表したときにスティーブ・ジョブズCEOは,「携帯電話,ワイドスクリーンiPod,インターネット端末が1つになった製品」と紹介した。2008年7月11日発売の「iPhone 3G」には,さらにもう1つ新しい重要な要素が加わった(写真1)。それは,アプリケーション・プラットフォームだ。iPhoneのビジネスモデルを大きく変える威力がある。


写真1●WWDC 2008で発表された「iPhone 3G」   写真1●WWDC 2008で発表された「iPhone 3G」
7月11日に日本でも発売された。8GBモデルは黒モデルのみだが,16GBモデルは黒,白の2色が選べる。
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初代iPhoneから大きく方向転換

 アップルはこれまで,iPhoneがパソコン並みに高機能であることから,ウイルスなどの有害なソフトが作られる恐れがあるとして,他社製アプリケーションの開発を認めていなかった。しかし,iPhone 3Gで採用した新OS「iPhone 2.0」のリリースを機に,正式にサードパーティによるアプリケーションの開発や販売を認めた。

写真2●アプリケーション販売サービス「App Store」
写真2●アプリケーション販売サービス「App Store」

 この大きな方向転換は,2008年1月に発表。安全性を確保しつつ,他社製アプリケーションを受け入れるしくみを打ち出した。その結果誕生したのが,iPhone 2.0に搭載された「App Store」だ(写真2)。

 「App Store」はiPhone用ソフトのネット販売サービスの名前であると同時に,iPhoneにインストールされたそのサービスの専用クライアントの名前である。iPhone上のiTunes Wi-Fi Music Storeでは音楽を売っているが,そのアプリケーション販売版というとイメージがつかみやすいだろう。

 実際,画面やメニューの構成はiTunes Wi-Fi Storeにそっくりだ。最新のお勧めアプリケーションのページがあったり,検索機能があったりして,欲しいアプリケーションを見つけたら指でタップするだけで簡単に購入できる。購入したアプリケーションは,即座に携帯電話のネットワーク(あるいは無線LAN)経由でダウンロードが始まり,すぐにインストールされ,メニュー画面にアイコンが加わり,使えるようになる。バージョンアップが行われた場合の通知もApp Store経由で実施する。アップルはこのサービスを世界62カ国で展開予定だ。

 つまりApp Storeは,既に1年間で600万台の累計販売台数を持つiPhoneという巨大プラットフォームにアプリケーションを提供できるだけでなく,そのiPhoneを通して世界進出するチャンスをも開発者に提供することになる。この大きなチャンスに胸をときめかせる開発者も多く,6月に開催したアップルの開発者会議「Worldwide Developers Conference 2008」(WWDC 2008)は,25年の歴史で初めてチケットが完売となり,5700人が参加した(写真3)。

写真3●WWDC 2008で紹介されたアプリケーション販売サービス「App Store」   写真3●WWDC 2008で紹介されたアプリケーション販売サービス「App Store」
有料ソフトでは売り上げの3割をアップルに支払えば配布できる。無料ソフトでは費用がかからない。
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 アップルが方向転換した背景には,iPhoneが目標に近い台数を出荷でき,出荷台数的に見てもアプリケーション・プラットフォームとしての魅力が高まってきたこともある。ただし,それだけではなく,アップルの誤算があったのも確かだ。