失敗プロジェクトをいくつか分析してみると,プロジェクトの開始時点では管理水準も高く,きちんと管理が行なわれている。しかし,ある段階(製造工程やテスト工程)からきちんと管理されていない状況となる。

 正しくは「管理できない状況になる」と言った方がよいのかもしれない。なぜなら,工程の進捗と共に,次々と新しい問題が発生し,プロジェクト・マネージャ(PM)は,その対策や対応に追われるからだ。また,解決スピードより,問題発生のスピードが速く,プロジェクト管理が追いつかなくなる。対策や対応のため人員投入やスケジュールの再設定などを行なうが,再設定のスケジュールは守れなくなり,何度もスケジュール設定を繰り返す。このような場当たり的対策を繰り返すうちに,プロジェクトの開始時点から実行してきた管理方式を維持する余裕がなくなり,プロジェクトの実態を正しく把握できなくなってしまうのだ。

 プロジェクト管理は,プロジェクトの「問題点やリスクの把握」と「適切な対策」に尽きる。だからPMは,問題点やリスクの管理を怠ってはいけない。

早期発見と早期対策が成功の鍵

 プロジェクトの成功は,問題点やリスクを早期に発見し,早期に適切な対策を打つことが鍵となる。多くのプロジェクトは,問題点の把握はできるが,スケジュールや要員,技術不足といった要因で適切な対策が打てない,あるいは,対策したものの効果が出ないという状況に追い込まれている。

 問題点を分析してみると,もっと前工程で発見できたであろう問題が多い。だが実際には,傷口が大きくなった時点(例えばテスト工程)で,ようやく問題であると認識しているのである。傷口が小さい時点(例えば製造工程)では,問題を問題として捉えられなかったのである。

 つまり,効果的な対策方法がないというよりも,対策が可能なタイミングで異常を検知できなかったことに主な原因があるプロジェクトが多い。プロジェクトも人間の病気と同様に,早期発見と早期対策(治療)が重要である。

 早期に問題点が分かれば,知恵を出し合い対策することも可能である。だが,その前提となる問題点の発見にPMはもっと注力を注がなければならない。まずは早期に問題点を問題と認識・把握することである。

実態を把握して優先順位を考える

 プロジェクトには,不確実性や複雑性が伴うため,必ず問題が発生する。問題がないプロジェクトは恐らく,問題点に気付いていない場合が多い。プロジェクトが混乱すると,次から次へと問題が発生するため,問題に振り回されてしまう。よって,発生順というより,やれるものから対策を取るといった場当たり的対応となる。プロジェクトに問題が多発した場合は,より正しい実態把握をするための管理が必要となるが,目先の個別問題の対策に追われて,実態把握ができなくなってしまう。こういうときほど,PMは実態を把握し問題に優先順位を付けて戦略的に進めなければならない。

リスクを予見し,予防対策を打つ

 プロジェクトには不確実性や複雑性が伴うため,遂行途中では必ず予期しないことが発生する。計画時に予見したリスクの影響度が変わったり,新たなリスクが発生することもある。プロジェクトは変化する生き物のようなものである。従って,PMは計画時に作成したリスク一覧を定期的に見直すようにしなければならない。プロジェクトを成功させるには,いかに早くリスクを予見して,予防対策をとれるかが重要なポイントである。リスクを予見できないとプロジェクト遂行中に次から次へと想定外の問題が発生する。当然,発生時対策も検討されていないため,もぐら叩きのように問題対策に追われてしまう。PMにとって重要なことは,リスクを考え,リスクを予見し,そのリスクに対して何をやるべきかを考えることである。

 筆者の会社では,見積もり時からリスクや問題点を継続的に一元管理するため,に示す「リスク管理シート」を使用している。リスクを特定したらリスクの影響度と発生確率を定量化し,優先順位を付け,対策(予防対策/発生時対策)を立てる。そして,不幸にもリスクが発生してしまった場合には問題点として管理していく。

図●リスク管理の方法
図●リスク管理の方法
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 PMは,プロジェクトを成功に導くために問題点やリスクを早期に発見し,限られた期間,リソース,コストの中で優先順位を付け,有効な対策を策定しなければならないのである。

千種 実(ちくさ みのる)
日立システムアンドサービス
プロジェクト推進部 部長
1985年,日立中部ソフトウェア(現 日立システムアンドサービス)に入社。入社以来,一貫してプロジェクト管理に従事。PMOの立場でトラブル・プロジェクト支援を数多く経験した後,社内のプロジェクト管理制度の構築やプロジェクト管理システム(PMS)開発およびプロジェクト支援,プロジェクト・マネージャ教育講師に携わる。また,他社のプロジェクト管理に関するコンサルティングや研修講師,講演などを経験し,現在もPMOの立場からITプロジェクトを成功へ導くために幅広く,社内外で活動中。1962年,三重県出身。岡山理科大学理学部応用物理学科卒。