既存のSaaS事業者がモバイルへの対応を進める中,通信事業者のKDDIが本格的にモバイルSaaSに参入した。4月からマイクロソフトと協業し SaaSサービス「Business Port」の提供を開始。まず両者のプラットフォームでサービスを提供し,秋以降にはほかのソフト・ベンダーの業務アプリケーションをこのプラットフォームから提供できるようにする。

 Business Portの第1弾サービスとして提供するのは,マイクロソフトのMicrosoft Office OutlookのSaaS版「KDDI Business Outlook」。パソコンではMicrosoft Windows SharePoint Servicesによってメール,アドレス帳,スケジューラ,簡易ワークフロー,文書共有,ポータルの機能をWebブラウザから利用する。携帯電話からはメール,アドレス帳,スケジューラを使えるようにした。スケジューラとアドレス帳はBREWアプリで利用する。

 このサービスは携帯電話向けに最適化された画面となっている。カレンダーを例に見ると,パソコン向けには1カ月分の予定を表示できるが,携帯電話向けには1日分の表示にとどめている(写真1写真2)。

写真1●携帯電話用のKDDI Business Outlookのスケジュール画面
写真1●携帯電話用のKDDI Business Outlookのスケジュール画面

写真2●パソコン用のKDDI Business Outlookのスケジュール画面
写真2●パソコン用のKDDI Business Outlookのスケジュール画面

 しかもKDDIは,携帯電話機の機能の一部をモバイルSaaS用に作り変えて提供する。通常EZwebメールを送受信する携帯電話のメーラーを,企業ドメインのアドレスを持つメールを送受信できるように設定を変更するのだ。

 この際に企業ユーザーはKDDIがBusiness Portのサービスで用意するメール・サーバーを使用する。ユーザーは,携帯電話から企業ドメインのアドレスを持つメールをプッシュ型で利用でき,パソコンからも同じメールを閲覧できる。スケジューラやアドレス帳のアプリのように利用するたびに立ち上げる必要はなくなる。

ID一つで複数のアプリを利用可能に

 KDDIのBusiness Portでは,KDDIが所有するデータ・センターや携帯電話の料金請求/回収システム,BREWアプリ開発の技術サポートなど,SaaS提供に必要なリソースをほかのソフトウエア・ベンダーに提供する(図1)。

図1●KDDIが提供する「Business Port」の仕組み
図1●KDDIが提供する「Business Port」の仕組み
KDDIがデータ・センターや料金請求/回収システムなどを提供して,ソフトウエア・ベンダーがパソコンだけでなくモバイル向けのSaaSにも参入しやすくする。
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 SaaS事業者は,自社が開発したアプリケーションとデータ・センターをセットにしてサービスを提供してきた。Business Portでは,端末から通信インフラ,データ・センター,サーバーといったプラットフォームをKDDIとマイクロソフトが用意して,その上でソフトウエア・ベンダーがアプリケーション・サービスを提供する,というモデルを展開する。「ソフトウエア・ベンダーの投資負担を軽減する」(KDDIソリューション事業統括本部ソリューション戦略本部アプリケーション推進部1グループの傍島健友グループリーダー)。ユーザー企業にとっては,サービス選択の幅が広がる。

 Business Portでは,今秋以降にピー・シー・エー,ソフトブレーン,オービックビジネスコンサルタント(OBC)など6社のソフトウエア・ベンダーのアプリケーションが加わる予定だ。KDDIの携帯電話ユーザーは,このプラットフォーム上で展開されるモバイル用アプリケーションをすべて選択できるようになる。しかも,一つのIDだけで利用できるうえに,アプリケーション同士を連携させることも可能になる。