企業に急速に浸透しているSaaSが,携帯電話をはじめとするモバイル機器への対応を進めている(図1)。米セールスフォース・ドットコムや米ネットスイートなどのSaaS事業者だけでなく,通信事業者のKDDIが米マイクロソフトと組んで4月末にサービスを開始するなど,新しい動きも見えてきた(表1表2)。

図1●パソコン向けのSaaSを携帯電話機からでも利用できるモバイルSaaS
図1●パソコン向けのSaaSを携帯電話機からでも利用できるモバイルSaaS
パソコンで利用するのと同様にSaaS事業者のサーバーにアクセスして,アプリケーションやデータベースを活用する。4月にはKDDIがマイクロソフトと組んでサービスに参入した。
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表1●国内で提供中,または提供予定の主な携帯電話向けモバイルSaaS
すべてNTTドコモ,KDDI,ソフトバンクモバイルの3社に対応する。
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表1●国内で提供中,または提供予定の主な携帯電話向けモバイルSaaS

表2●KDDIとマイクロソフトがSaaS用プラットフォームを提供する「Business Port」
秋からマイクロソフト以外のサービスも追加する。
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表2●KDDIとマイクロソフトがSaaS用プラットフォームを提供する「Business Port」

 その背景には,携帯電話機をIT端末として活用を目指すという企業ユーザーのニーズがあるようだ。「携帯電話からSaaSを利用したいというところから商談が始まる例もある」と,ソフトバンクBBの中山五輪男コマース&サービス統括MD第3統括部SaaS事業推進部シニアコンサルティングマネージャは説明する。中山マネージャは,セールスフォース・ドットコムのCRMアプリケーション「Salesforce」をソフトバンクモバイルの携帯電話機向けに提供している。

 今年2月にSalesforceを導入したキヤノンマーケティングジャパンは,携帯電話からSaaSを利用できるかどうかをサービス選択の条件として挙げていたという。

外出先での利用ニーズに応える

 一般的なSaaSでは,ユーザーがSaaS事業者のデータ・センターにアクセスして,業務アプリケーションを利用する。サーバーなどのITリソースを企業が抱えずに済むだけでなく,業務アプリケーションを利用する際の初期投資を最小限に抑えられる。こうした利便性が追い風となって,導入する企業が増えている。

 日経マーケット・アクセスが企業の情報システム担当者を対象に実施した調査によると,SaaS/ASPサービスへの投資予想平均は2007年6月時点で555万円だったが,2008年1月時点には705万円に増加。企業のSaaSへの意欲的な姿勢が見える。

 これまでのSaaSは,主にパソコンでの利用を前提としていた。早くから携帯電話に対応していたセールスフォース・ドットコム以外は,ほとんどが最近になって携帯電話への対応を始めた。

 背景には携帯電話を法人契約で社員に貸与する企業が増えたことがある。携帯電話は,社外を含めて社員が持ち歩くことが前提。しかもアプリやブラウザを立ち上げるまでの時間が短く済む。紛失や盗難などのトラブルの際には,遠隔消去やロックをかけるといったセキュリティ機能を備える。社外からSaaSにアクセスする端末の有力候補として携帯電話機が浮上したのはこのためだ。

 ノート・パソコンを社外に持ち出してSaaSを利用すると,起動に時間がかかるだけでなく,端末の紛失や盗難などにより,端末内に蓄積した情報の漏えいリスクを背負うことになる。ノート・パソコンの持ち出しを禁止している企業が少なくないこともモバイルSaaSの追い風となった。