ユーザーがモバイルSaaSを利用する場合は,パソコンの場合と同様,携帯電話から事業者のデータ・センターにアクセスすることで利用できる。

 ただしパソコンに比べて画面のサイズが小さく,CPUやメモリーに制約がある携帯電話の場合,パソコン向けのアプリをそのまま実行・表示させるのは非現実的だ。このための一つの手段として携帯電話向けの専用アプリケーションを開発して,端末の仕様に合わせて画面構成やUI(ユーザー・インタフェース)を最適化する方式がある。

 セールスフォース・ドットコムのSalesforceでは,KDDIの携帯電話機とソフトバンクモバイルのスマートフォン向けに「Salesforce Mobile」を,NTTドコモとソフトバンク・モバイルの3G携帯電話用に「MoobizSync2.0 for AppExchange」という専用ソフトをそれぞれ用意する。

 専用ソフトは携帯電話からの利用を前提として,一部の画面構成を携帯電話向けに最適化している(図1)。例えば,商談情報ではパソコンの場合,一画面に情報を一覧表示するが,携帯電話向けでは閲覧しやすいように情報を縦に並べて表示する。情報量はパソコン用のソフトと大差はないようにした。

図1●専用アプリにより,パソコンとの差異を減らしたモバイルSaaS
図1●専用アプリにより,パソコンとの差異を減らしたモバイルSaaS
セールスフォース・ドットコムは携帯電話用の専用アプリを用意し,携帯電話からも利用できるようにした。

最低限のデータ閲覧・編集に限定

写真1●フィードパスの「feedpath Zebra」のモバイルSaaS版(開発中イメージ)
写真1●フィードパスの「feedpath Zebra」のモバイルSaaS版(開発中イメージ)
メールの送受信機能に特化し,シンプルなUIにしている。

 ただしモバイルSaaSではパソコン向けのすべての機能を提供するとは限らない。ユーザーが携帯電話で使いたい機能は最低限のデータ閲覧や編集までで,複雑な処理やリッチな画面を表示したいというニーズは低いからだ。

 Salesforceの場合,蓄積したデータを基にグラフやチャートを表示する,パソコン向けの「ダッシュボード」と呼ぶ機能を,携帯電話向けには提供していない。ダッシュボードのビットマップ画像のデータ容量が大きいため,そのままでは携帯電話で表示できないという事情もあるが,「モバイルSaaSではユーザーの大半がデータを早く取り出せることにプライオリティを置いている」(セールスフォース・ドットコムプロダクトマーケティング担当の榎隆司執行役員)という理由が大きい。

 ほかのSaaS事業者も,モバイル向けではまずデータの閲覧・編集用機能を優先的に搭載している。ERPやCRMなどの業務アプリケーション「NetSuite」を提供する米ネットスイートは,3G携帯電話のブラウザから利用できるモバイルSaaSを年内にも提供する。この際の機能は,携帯電話のブラウザで利用可能なSFAに限定し,「ユーザーの要望に応じて段階的に提供する機能の範囲を広げる」(ネットスイートの高沢冬樹上席執行役員マーケティング本部長兼営業推進本部長)。

 企業向けにメールやスケジューラなどの業務アプリケーションのSaaS「feedpath Zebra」を提供するフィードパスは,6月以降に始めるモバイルSaaSで,ブラウザからのメール送受信機能に特化する(写真1)。パソコンで利用できるスケジューラや他システムとのマッシュアップの機能を省き,当面はメール送受信に絞った。