「21世紀の発電所」に並ぶのは、タービンではなく大量のサーバーだ。数十万台のコンピュータが集積する巨大データセンターは、インターネットという「送電線」を通じてあらゆる機器に処理能力を配分する。ビル・ゲイツ氏がITの主役に押し上げたパソコンは選択肢の一つにすぎなくなる。

 1999年創業の新興サーバーメーカー、米ラッカブル・システムズ。5月下旬、米サンフランシスコから車で1時間ほど走って同社を訪問すると、出荷作業の真っ最中だった。

 大型トレーラーの荷台に長さ12m、幅2.4m、高さ3mほどのコンテナが積まれる。ここまではごく普通の風景。

 だがコンテナの扉を開けてもサーバーを収めた段ボール箱は見あたらない。代わりに記者の目には、壁面に沿って整然と並ぶコンピュータラックが飛び込んできた(図11)。

図11●米ラッカブル・システムズはクラウドコンピューティングに注力して急成長している
図11●米ラッカブル・システムズはクラウドコンピューティングに注力して急成長している

 そう。このコンテナは運搬用ではなく、サーバーのきょう体の一部。ラッカブルは工場出荷時にサーバーをコンテナ内に据え付け、そのまま顧客のデータセンターに搬入するのである。

 コンテナ1台当たり何と1400台のサーバーを搭載可能だ。CPUコア数に換算すると1万1200になる。ストレージの総容量も7Pバイト(7168Tバイト)に上る。このコンテナを一度に2~3台、顧客に納入する。

 裏を返せば、これだけのコンピューティングパワーを必要とする大規模データセンターが米国では次々と建設されていることになる。マイクロソフトがシカゴに建設中のデータセンターには、ラッカブルのコンテナが200基並ぶ計画である。

 ラックマウントかブレードかという議論をはるかに超越した「コンテナ型コンピュータ」――。これが「ゲイツ後」の世界のコンピュータ像だ。

コンピュータが集約されていく

 「すべての家庭と机にコンピュータを」。ビル・ゲイツ氏は一握りの専門家のものでしかなかったコンピュータを、文字通り「パーソナル」な存在に変えた。メインフレームに処理能力が集中するホスト時代に終止符を打ち、無数のパソコンとサーバーが処理を分担するクライアント/サーバー型の処理形態を確立した。

 しかし今、世界のコンピュータは再び専門家の手に集まりつつある。巨大データセンターに無数のコンピュータを集約。利用者にはインターネット経由で処理結果を配分する形態が主流になろうとしている(図12)。

図12●クラウドコンピューティングの概念
図12●クラウドコンピューティングの概念
巨大データセンターに集約されたコンピュータ資源をサービスとして利用する

 コンピュータ資源を利用する機器も様変わりする。アクセスする端末機器に必要なのはWebブラウザ。OSや機器の種類は問わない。コンピュータ資源は仮想化され、物理的な構成や設置場所、種類を問わず利用できるようになる。そのときゲイツ時代に主役だったパソコンは、数多くある端末の一つにすぎない。

 クラウドコンピューティングと呼ばれるこの現象。巨大なデータセンターが主戦場となる。

 グーグルが36カ所、マイクロソフトは20カ所超。クラウドの有力プレーヤーは巨大データセンターの建設にしのぎを削る。

 コンピュータメーカーもデータセンター建設を急ぐ。米ヒューレット・パッカードは85カ所あった既存センターを米国内の3地域6カ所に集約。社内システムを運用すると同時に顧客向けクラウドサービスの拠点としても活用する。

 ソフト大手のオラクルも米テキサス州オースティンに巨大データセンターを構える。2万5000平方メートルの敷地に2万台超のサーバーを設置。29カ国330社にオンラインサービスを提供する(写真1)。

写真1●米オラクルはオースティンにあるデータセンターから、全世界330社にオンラインサービスを提供する
写真1●米オラクルはオースティンにあるデータセンターから、全世界330社にオンラインサービスを提供する
写真提供:日本オラクル

 データセンターに並ぶ1台1台のサーバーは安価なもの。プロセサもメモリーもマザーボードも大量調達できる汎用品を使う。安価なサーバーを数千台単位でデータセンターに並べ、仮想化技術でサーバーを論理的に統合、並列・分散処理を実行する。