エノテック・コンサルティングCEO 米AZCAマネージング・ディレクタ 海部 美知 |
自動車の運転は,今や誰でもできる普通のことだが,オートマチック車やパワー・ステアリングが登場する前は熟練が必要だった。
ネットワークを利用したサービスは,まだ発展途上の「オートマ車登場以前」と感じることが多い。オートマ車だったら,種々の技術はユーザーから「透明」,つまり意識することなく,「車を運転する」という最終目的だけが見える。しかしネットは,接続方法やアプリの使い方がいろいろあって,ユーザーがそれらを意識して使いこなす必要がある。だから,使いこなせる人とそうでない人の間に溝が発生する。
オートマ車を運転するかのごとく,ネットワーク技術を意識せずにサービスを使えるようになってようやく,ネット時代は本格的になる。そんな時代の萌芽と思えるサービスが,最近気になっている。
Xbox Liveによる統合サービス
例えば,米マイクロソフトのゲーム機Xbox360に付随するネット・サービス「Xbox Live」。
Xbox Liveの面白い点は,種々のネット機能が「ゲーム」を中心に統合されているところだ。コントローラにヘッドセットを接続し,ネットを介して音声チャットしながら多人数でゲームをする。子供たちは,ただ一緒に撃ち合うだけではなく,ゲーム内のキャラクタの姿を借りて仮想空間に集い,ミーティングやダンス・パーティをする。単に電話の代わりに使ったりもする。
Xbox Liveは月額料金が必要だし,最初の接続設定にやや手間取るなど,まだ完全ではないが,実際に利用する子供たちから見ると「透明」な統合サービスに近い。
読書関連だけに特化したKindle
米アマゾンの電子書籍端末,「Amazon Kindle」も「透明なネット」の一つ。「読書」というユーザーの行動に徹底的に絞り込んであるのが特徴だ。
Kindleのディスプレイは電子インクを使った「紙」に近いモノクロ画面を採用している。米スプリント・ネクステルの携帯データ通信機能を搭載していて,電子書籍を直接ダウンロードして読める。
無線接続のコストは書籍ダウンロードの価格に含まれていて,ユーザーが別途携帯電話料金を支払う必要はない。このようなサービスが可能なのは,表示するものは読書に関連したモノクロ画像と割り切り,データ・サイズが大きい動画や写真は扱わず,ネット接続のコストを安く済ませられるからだ。
場所や時間にとらわれず,料金も気にせずに,ユーザーは本を読むことだけに集中できる。通信は黒子に徹する「透明」なサービスだ。Kindleを見ると,ネット端末では目的や機能,容量とコストのバランスが重要なのであって,カラフルな機能を何でも詰め込むことではないのだな,と感心する。
Xbox LiveとAmazon Kindle,どちらもまだ「芽」程度の段階だが,このようなユーザー・エクスペリエンスを重視した「透明度の高いネット」が,通信サービスの次の段階にくるに違いないと考えている。
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