日産自動車CIO(最高情報責任者)の行徳セルソさんは才能と努力の人で、向上心があり心に垣根がない。ブラジルに生まれ、サンパウロ大学で昼は建築、夜は経理学を学んだ。ブラジルの大手銀行、日本での都市計画、アクセンチュア、米国東芝の半導体会社、米i2テクノロジーズなどでシステムやソフトウエアのベンダーとして、ユーザーとして業務を経験。職種だけでなくブラジル・米国・日本という国境の制限もない。世界標準でシステムを考えることができる稀有な人材だ。

 日産には2004年に現職で入社、当時、カルロス・ゴーンCEO(最高経営責任者)からは、システム部門が何をやっているか分からない、失敗も多いと内情を伝えられた。しかし、ユーザー部門と経営陣にヒヤリングして、日産に欠けているのは、コミュニケーションだと分かった。ワールドクラスのビジネスプランを持ちながら、投資判断をする経営陣にシステムの方針が伝えられていない。行徳さんの長年の経験と知識からは、改善点は自明だったが、ROI(投下資本利益率)を分かりやすく説明しない限りその予算は下りない。

 行徳さんは、エグゼクティブ・コミッティーに提案するために、ハケットという会社に情報システムの評価を依頼した。幸いにもハケットの評価は厳しく、日産の情報システムはワールドクラスに達していないとされた。かくして、日産のシステム部門が世界標準を目指す5年がかりの改革「BESTプラン」を実行することとなる。ビジネス・アラインメントでグローバルとリージョナルなどの投資の最適化を進める。エンタープライズ・アーキテクチャーでベンダーに移行していたノウハウを内部に蓄積。セレクティブ・ソーシングでベンダー1社への依存を減らし、戦略的なアウトソーシングを実施し、テクノロジー・シンプリフィケーションでインフラの標準化を目標とする。

 トップがゴーンさんでなければ通らなかった提案だと思う。ビジネスプランが3年単位できっちり発表される会社だからこそ、システムにもビジネスで何を解決するかを提案することが求められていたのだ。

 行徳さんは語る。ほかの会社でも、改善案がなければ、世界標準のベンチマークをとってみることだ。ベストプラクティスが見えてくるはずだ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA