Q:委託先のレベルが低くプロジェクトがうまく回らない。PMとしてどう対処すべきか悩んでいます。

 開発作業において,プロジェクト・マネジャー(PM)として,プロジェクト・メンバーである委託先との仕事のやりとりで悩んでいます。プロジェクト・メンバーがすべて委託先という体制で開発に臨んでいますが,委託先からの成果物のレベルが低く,プロジェクトがうまく回っていない状況です。そこで悩んでいるのが,プロジェクト・メンバーがすべて委託先という体制で,どこまでマネジャーである自分が担うべきなのか,ということです。

 世に出ているプロジェクトマネジメントの書籍は,メンバーの育成やメンバーとの心からの(表面だけではない)コミュニケーションの重要性を説いており,それらが重要だということは分かっていますが,自分の思いとしては,そんなことよりもまず委託料に見合った成果を委託先が出すべきであると考えています(成果が出せなければ,メンバーの変更を依頼したり,委託先を変えるなどの対応を取るべきとも思っています)。

 ただ社内には,プロジェクト成功のために,委託先のレベル云々より,委託範囲という垣根を越えて委託先に協力すべきという意見もあり,どうすべきか困惑しています。PMとしての立場や,委託先との仕事の仕方など参考になるご意見をいただければ幸いです。よろしくお願いします。
(金融系システム子会社にてプロジェクト・マネジャーを担当/男性・30歳)

A: プロジェクト成功のために委託先とともに寝食を忘れて努力せよ。

 業界の現状として,大手ベンダーや大手企業のシステム子会社では,プロジェクト・マネジャー(PM)以外はすべて委託先,という体制が非常に多く見られます。そのため,あなたのような悩みを抱えている方は非常に多いのです。この場合は,物事の優先順位をはっきりさせることが必要です。まずは,諸条件を整理して優先順位を考えてみましょう。

 最初に委託先に関してですが,委託先が選定される段階で,コストや技術力,実績といった条件が考慮されているはずです。委託先の選定自体は元請けの責任です。従って,委託先の品質,納期など,すべては元請けであるあなたの会社が管理するのは,当たり前のことです。

 次にPMに関してですが,あなたがPMに選ばれたことは,会社としてそれなりの理由があったからでしょう。経験や人材の空き具合など,様々な条件が考慮されているはずです。忘れてはならないのは,会社は「あなたにはこの仕事ができる」と判断していることです。どんなに忙しい会社でも,確実にできない仕事を任せることはないからです。

 第三にPMの使命ですが,これは「プロジェクトを成功させること」なのは間違いないでしょう。PMはそのために持てるすべての能力を使わなければなりません。技術力はもちろん,判断力,行動力そして人間力(人間としての魅力)などが必要になります。

 さて,以上の諸条件を考えると,あなたの現状を打開するための優先順位は明らかです。つまり,優先順位の第一は,プロジェクト成功のために委託先とともに寝食を忘れて努力することです。委託先の能力は,元請けであるあなたの会社の責任であり,PMであるあなたの責任でもあるからです(顧客や親会社から見ても,そのようにしか見えません)。

 委託先を批判する前に自分が努力し,その姿勢を委託先が意気に感じてくれれば,必ずこれまで以上に努力してくれます。これは「技術力」ではなく「人間力」の勝負であり,「コミュニケーション活性化」などという生易しい,乾いた言葉で表現できるものではありません。

 優先順位の第二は,それでも委託先の能力があまりにも低く,プロジェクトの成功がおぼつかない場合に,委託先の人員や委託先自体を変更することです。この場合,リードタイムが必要なので,かなり早い段階で判断しなければなりません。あるいはプロジェクトの遅延を,顧客や親会社に宣言しなければなりません。これは判断力の勝負ですが,すべての手を尽くしたうえでのことでないと,上司も顧客も納得してくれませんので,第一に挙げた人間力の努力が必要なわけです。

 米国のようにクールな人間関係を前提にした契約社会のPM理論は,日本人の集団には通用しません。確かに米国では,委託先の能力不足が明らかな場合は,まず交渉します。従って,現実的にプロジェクトの中止,遅延やコスト超過が過半数を占めますが,それは理屈として顧客に納得させ,そのリスクを契約条件にあらかじめ組み込んでおくのが常識です。契約ではなく信頼関係がベースとなる日本の社会では,プロジェクト中止など,まず考えられないでしょう。顧客の信頼を裏切ることは,絶対にしてはならないからです。

 コミュニケーションが必要なのはどんな仕事でも当たり前です。世界中どんな職場でもコミュニケーションの重要性は認識されています。ただし,日本社会で要求されるコミュニケーションとは,欧米流の乾いたコミュニケーションではなく,かなり深く,「同じ釜の飯を食う仲間」として互いの人生について語り合い,肩を叩きあって頑張ろうというレベルのものです。

 相手が委託先であっても,同じプロジェクトをしている以上,「同じ釜の飯を食う仲間」であることには違いありません。委託先,元請けという立場を超えて,人間としてのあなたを信頼してくれなければ,プロジェクトはうまくいかないのです。