独SAPが中堅企業向けに続き、大企業に向けてSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を投入する。先行する“Web2.0企業”と異なり、主力のERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理)など既存パッケージ製品の補完と位置づけた点が特徴である。

 独SAPが大企業向けに2009年にもSaaSとして提供するのは「Collabo-rative supplier management」。調達先が持つ在庫や価格などの情報をリアルタイムに取得し、最適な調達先の選定を支援する。同時に、設計作業の共同化を支援する「Collaborative product design」と、全世界に子会社を持つ企業の業務を支援する「Collaborative corporation」も提供する予定だ。

 SAPは08年に、初のSaaS製品として中堅企業向けERP「Business ByDesign」の提供を開始。大企業向けSaaSを開始する意向も表明していた。SAPが米フロリダ州オーランドで今年5月に開催した年次カンファレンス「SAPPHIRE 08 Orlando」で、大企業向けSaaSの概要を明らかにした。

 SAPが投入する大企業向けSaaSは、ERP・CRMをSaaSとして提供する米セールスフォース・ドットコム、米ネットスイートの製品やBusiness ByDesignとは大きく異なる。セールスフォ ースやBusiness ByDesignなどは基幹系の機能をSaaSだけで提供することが前提。これに対し、SAPの大企業向けSaaSは既存パッケージ製品の補完と位置づけている()。

SAPが明らかにした製品戦略の概要
図●SAPが明らかにした製品戦略の概要

 会計や販売管理など主要な基幹系の機能を提供するのは既存製品。これらと他のシステムを束ねてリアルタイムで自在に情報を表示する、といった既存製品では実現しにくい部分をSaaSで補う。SaaS形式だけでなく、必要に応じてサーバーにインストールして利用する従来の形態も選択できる。

写真●独SAPのヘニング・カガーマンCEO
写真●独SAPのヘニング・カガーマンCEO

 SAPが大企業向けSaaSを既存製品の補完とみなすのは、現時点では「大企業の基幹システムはサーバーに置いて利用するのが最適」と考えているからだ。SAPのヘニング・カガーマンCEO(最高経営責任者)は「SaaSが基幹系システム構築の主流の方法になることはない」と言い切る(写真)。

 SAPが大企業向けSaaSに慎重なのは、Business ByDesignの提供計画が必ずしも順調でないことも影響しているようだ。日本での提供開始は当初、08年末から09年初頭を予定していたが「早ければ09年中」(カガーマンCEO)と、当初予定より遅れる可能性が高い。カガーマンCEOは「課金モデルなどオペレーション上の問題が残っている」としながら、「製品自体は軌道に乗っている」と説明する。

 SAPPHIREでは、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)ソフト「NetWeaver BPM」も発表した。ビジネス・プロセスの流れや呼び出すサービスを指定することで、プロセスに沿って処理を進めるアプリケーションを作成できる。SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくシステムの実現に欠かせない製品である。08年第3四半期から一部顧客に、09年からすべての顧客に提供する。
(島田 優子=米オーランド)