2008年5月28日と6月20日に相次いで,録画番組の配信サービスを提供していた会社に対して放送事業者が事業の差し止めと損害賠償を求めていた訴訟の判決が出た。5月28日の判決では放送事業者の主張がほぼ認められ,東京地方裁判所は被告の日本デジタル家電に対してサービスの停止と733万円の支払いを命じた。一方,6月20日の判決では,サービスを提供している永野商店に対する請求は棄却された。

 どちらのサービスも,親機で録画したテレビ番組をインターネット経由で離れた場所にある子機で視聴できるサービスである。在留邦人が日本のテレビ番組を視聴したり,国内の利用者が居住地域とは異なる地域のテレビ番組を視聴したりする目的で利用している。同様のサービスに対する判決が正反対の結果となったのは,テレビ番組を録画する親機の所有権が異なるためである。

 日本デジタル家電のサービスでは,利用者は同社の親機をレンタルし,子機だけを購入する仕組みだ。親機の所有権は日本デジタル家電にあり,親機の管理も同社が行っていたと認定された。その結果,親機における番組の複製(録画)の主体は日本デジタル家電であり,それを配信して利益を得ることは,原告である放送事業者の複製権を侵害していると判断された。

 永野商店のケースでは,ソニーが販売する親機と子機を利用者が購入し,親機を永野商店に預ける仕組みである。永野商店は預かった親機に対して電源やテレビアンテナ,インターネット回線の供給を行っているが,これらは利用者自身でできる作業を永野商店が代行しているにすぎないと判断された。また,親機と子機はペアで動作し,個々の親機はその親機を所有している利用者の子機だけに番組を配信することから自動公衆装置に該当せず,放送事業者の著作権を侵害しないと判断された。

 判決を受けて原告の放送事業者は本誌の取材に対して,「放送事業は地域免許に従ったもので,インターネット配信は放送とは別に著作権者の許諾が必要なもの」(テレビ朝日,フジテレビジョン)という認識を示した。NHKは,「著作権処理を全く行わずに番組を利用者に提供することで利益を得ており,制作者や出演者などの権利者に対する利益の分配がない」と問題視している。

 2006年8月4日の東京地裁への仮処分命令の申立に対する判決に始まり,今回の東京地裁の本訴に対する判決を合わせて,永野商店のサービスに対する司法判断はこれまでに4回行われている。いずれも,同社のサービスは著作権侵害に当たらないとした。今後,放送事業者が控訴して主張が認められなかった場合,永野商店のサービスの合法性を裏付ける結果となる可能性もある。それでも放送事業者は,「放送において非常に重要な問題で,上級審の判断を求めることが必要不可欠」(テレビ朝日)とし,控訴の準備を進めていることを明らかにした。現在,日本デジタル家電は親機を預かるサービスを中止している。永野商店は,「控訴されるかもしれないが,今後もサービスを続ける」という。