2008年4月~2011年3月の3年間,総務省は「ユビキタス特区」を実施する。これは世界最先端のICTサービスを開発・実証と国際競争力の強化を目指したもの。3年間に期間を限定し,空いている周波数帯(280MHz帯と1.5GHz帯,5.8GHz帯,およびUHF/VHF帯)を利用し,様々な実証実験が実施される。

 その中で,国の予算支援を予定するプロジェクトとして「次世代ワンセグ放送プロジェクト」の委託先候補が5月23日に決定した。委託先に決まった札幌総合情報センターは,実証実験を円滑かつ効果的に遂行することを目的として,地元放送事業者など14事業者による「マルチワンセグメントサービス実証実験協議会」を設立した。札幌市および洞爺湖地区で実施される次世代ワンセグ放送プロジェクトは,この協議会を中心に進められる(報道資料)。

 今回と次回は,2008年6月12日に幕張メッセで開催された「IMC Tokyo 2008」のコンファレンスから,札幌市と洞爺湖地区で実施されるマルチワンセグメントサービスのイメージについて説明する。

2008年度は“モアチャンネル”,2009年は課金や蓄積の実験

 マルチワンセグメントサービス実証実験協議会は,総務省北海道総合通信局と札幌市をオブザーバーに,デジタルメディア協会(AMD),北海道情報システム産業協会,NHK札幌放送局,北海道テレビ放送などの地元放送事業者や北海道のコンテンツ事業者,通信事業者としてKDDIなどが会員となっている。なお,KDDIは実験用のau携帯端末を用いたマルチワンセグメントサービスの送受信実験に参画する予定だ(報道資料)。

 コンファレンスではまず,AMD参与で慶応義塾大学デジタルメディア・コンテンツ総合研究機構 特別研究准教授の菊池尚人氏が登壇。AMDが作成した「公共空間等におけるモバイルコンテンツビジネスの在り方に関する研究会報告書」を元に,マルチワンセグメントサービスの可能性について概要を説明した。AMDは,映画会社,ゲーム会社,番組制作会社など様々なコンテンツ事業者が会員となっている組織である。

 マルチワンセグメントサービスとは,NHK放送技術研究所が開発したワンセグ連結再送信方式を用いたもの。各テレビ局が送信する地上デジタルテレビ放送の中からワンセグ放送信号だけを取り出し,それらをひとつのデジタルテレビのチャンネル (6MHz帯域) として放送するサービスである。

 地下街や駅構内といった地上デジタル放送波が直接届きにくい場所へ1チャンネルで複数のワンセグ放送を再送信することができる。さらに,1チャンネル分の帯域で13セグメントを利用できるため,例えば既存の地上波放送局8局分のワンセグ放送以外に,独自に5チャンネル分のワンセグ放送を加え,合計13チャンネル分のワンセグ・コンテンツを流すことが可能である(図1)。

図1●マルチワンセグサービスのイメージ
図1●マルチワンセグサービスのイメージ
IMC TOKYO 2008 専門カンファレンス資料「次世代ワンセグ放送に向けての取組み,マルチワンセグメントサービスの可能性」を基に著者が作成
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 2008年度の実証実験は,7月7日~7月9日に開催される北海道洞爺湖サミット(G8サミット)会場周辺での実証実験と,札幌地下街での実証実験の,2つのテーマに分かれている。今年度の実験内容について菊池氏は,「AMDで検討してきた結果,今年度は地上波デジタル放送のワンセグ再送信+新規チャンネル,いわゆる『モアチャンネル』の実証実験を展開する」と説明した。技術的な観点から現行のワンセグ放送と同程度の機能を前提とした実証実験であり,無料配信による広告モデルの検証や地域のイベントとの連動サービスといった可能性を中心に検証するという。

 2009年度以降は,モアチャンネルに加えて,有料課金機能や蓄積機能を使ったサービスの実証実験を企画している。菊池氏は,「受信端末に課金機能や蓄積機能を付加し,暗号化したファイルを伝送する実験を視野に入れている。機器の改修コストは負担となるが,試行できるビジネス形態を拡大できる。例えば,通信機能を使った認証や携帯電話の課金機能を使い,有料放送と組み合わせたサービスを想定している。有料配信,ファイルダウンロード,複数セグメントの一体利用など,幅広く多様なコンテンツ配信モデルの可能性を検証する」と説明した。また,利用する端末としては,携帯電話以外にもポータブル・ゲーム機も想定しているという。

モアチャンネルでマルチワンセグの魅力を引き出す

 続いて札幌市 市民まちづくり局 情報化推進部IT推進課プロジェクト推進担当課長の金田瑞枝氏が,札幌市としてユビキタス特区の実験に何を期待しているのかについて説明した。

 まず,北海道洞爺湖サミット会場周辺で実施するマルチセグメントサービスは,「サミット関係者へデモンストレーションすることで,日本の通信・放送融合技術を活用したサービスの実用性,先進性をアピールすることが狙い」(金田氏)という。ただし,現時点でマルチセグメントサービスを受信できる携帯端末は商品化されていない。そのため今回の実証実験では,KDDIがマルチワンセグメントサービスに対応した実験用携帯端末を貸し出し,マルチセグメントサービスを実体験してもらう予定だ。

 コンテンツとしては「北海道の地上波デジタル放送のワンセグ再送信,G8参加各国のテレビ放送,「環境,食,芸術文化」に関するローカル映像番組の提供を予定している」(金田氏)という。

 一方,札幌市内の「さっぽろ地下街」などにおいて2008年度後半から実施する実証実験のイメージについて金田氏は,「マルチワンセグメントサービスの多チャンネルに注目し,ユーザーの行動目的に合わせた地域情報の提供を考えている。また,多チャンネルによる官民複合サービスとして,例えば行政情報や海外からの観光客をターゲットとした多言語放送,地域の商業施設の情報,アートやイベント情報などの配信を考えている」と説明した。 

写真1●札幌地下街における実証実験のイメージ
写真1●札幌地下街における実証実験のイメージ
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 具体的なコンテンツ案として,北海道の地上波デジタル放送のワンセグ再送信に加え,札幌市の公共情報・観光情報や,コンテンツ事業者が提供する音楽チャンネル,ショッピングイベントチャンネル,ゲーム連動チャンネルなどを考えているという。また,札幌地下街での実証実験では,「店舗を巻き込んだタイムサービスをやりたいと思っている。例えば,地下街に来た人だけが受けられるクーポンサービスなど,具体的なサービスの実験ができればと考えている」(金田氏,写真1)。

 次回は,AMDが検討している「コンテンツ・プロバイダから見たマルチワンセグによるコンテンツ・ビジネス」について,カンファレンスの内容を元に解説する。