2008年になって,モバイル機器のLinux OSの座を巡り,LiMoとAndroidとの対立が顕在化してきた。携帯電話事業者大手が推すLiMoと,グーグルが豊富な資金力を背景に推進するAndroidという構図ができている。ただ携帯電話業界に閉塞感が漂い始めており,グーグルにイノベーターとしての役割を期待する視点から,Androidを無視するというわけではなさそうだ。

(日経コミュニケーション編集)

 米アップルからのiPhoneの登場は,米国市場でコンシューマ層のスマートフォンに対する関心を喚起した。その後の米グーグルによる「Android」の発表によって,スマートフォンに搭載するモバイルOS,とりわけLinuxへの注目が集まるとともに,これまでLinuxを推進していた業界団体の活動に加速度的な弾みをつけることになった。

 モバイルOSでは現在,英シンビアンのSymbian OSが市場の65%を占め,Linuxはわずか5%程度に過ぎない。しかしエコシステムやオープン・プラットフォームといった時代の要請を背景に,将来的にはオープン・ソースであるLinuxの普及が見込まれている。

 Linuxの開発,普及促進に当たっては,これまでに様々なフォーラムやコンソーシアムが結成されてきた。それが2008年になってモバイルLinuxを巡り,LiMoとAndroidとの対立構造が浮かび上がってきた。

 まず2008年2月にLinuxの2大有力陣営の一つLiPSフォーラム(Linux Phone Standards Forum)の推進メンバーであるフランスの通信大手オレンジと日本のACCESSが,もう一方の陣営であるLiMoファウンデーション(Linux Mobile Foundation:以下LiMo)への参加を表明し,5月には米国の携帯電話事業者大手のベライゾン・ワイヤレス,同じく韓国のSKテレコムなど新たに8社が加わった。とりわけベライゾン・ワイヤレスが,将来は主力機種でLinuxを採用していくと表明し,LiMo理事会メンバーとして開発に参加したことから,LiMoへの注目が高まっている(注1)。

注1:LiPSフォーラムは2008年6月26日(フランス時間),活動とメンバーを LiMoに統合する発表した(関連記事)。

携帯事業者大手が推すLiMoと資金が潤沢なAndroid

 LiMoは2007年1月,Linux OSベースの携帯電話向けソフトウエア・プラットフォーム「LiMoプラットフォーム」の構築を推進することを目的とし,米モトローラ,NEC,パナソニック モバイルコミュニケーションズ,韓国サムスン電子,NTTドコモ,英ボーダフォンの6社が設立した。2008年5月時点での参加メンバーは携帯電話事業者や携帯端末メーカー,半導体メーカー,ソフトウエア会社など40社に上る。

 携帯電話事業者の顔ぶれを見ると,当初からの設立メンバー以外では,オレンジが2008年2月に設立メンバーに参画したほか,2008年5月にはベライゾン・ワイヤレスと韓国SKテレコムがコアメンバーに参加を表明。このほかアソシエート・メンバーとして,ソフトバンク,仏SFR,韓国KTFが加盟するなど,欧州・アジア・米国の主要な携帯電話事業者が名を連ねている。

 同団体に加盟するためには,コアメンバー(9社)は年間40万ドル,アソシエート・メンバー(25社)は同4万ドルを会費として支払う。LiMoでは設立メンバーによる資金のほかに,少なくとも年間460万ドルの運営資金を調達していることになる。

 グーグルは2007年11月,Linux OSベースの携帯電話プラットフォーム「Android」をオープン・ソースとして無償提供することを発表し,同時に携帯電話事業者や携帯端末メーカー,半導体メーカー,ソフトウエア会社など34社で構成するAndroidの普及促進団体「オープン・ハンドセット・アライアンス」(Open Handset Alliance:以下OHA)を組織した。OHAの携帯電話事業者への参加企業は,チャイナモバイル(中国移動),NTTドコモ,KDDI,米スプリント・ネクステル,T-モバイルUSA,テレコム・イタリア,スペインのテレフォニカとなっている。テレコム・イタリアはLiPSフォーラムにも参加しており,NTTドコモはLiMoの設立メンバーである。

 なおNTTドコモ以外では,サムスン電子,モトローラ,LG電子,米ブロードコム,アプリックス,ウィンドリバーがLiMoとOHA両陣営に加盟している。中でもグーグルの開発パートナとしてAndroidを共同開発しているウィンドリバーについては,LiMoとOHAそれぞれで果たす役割に注目が集まっている。

 OHAの資金情報は不明だが,グーグルがAndroidのソフトウエア開発キット(SDK)の公開に合わせて開催した,Android向けアプリケーション開発コンテスト「Android Developer Challenge」の賞金総額が1000万ドルであることから,グーグルの資金力がAndroid推進に生かされていることは明らかである。