システム部門との関係はまずまず。だが利用部門に評価されなければ失注する。早めに開発パートナーを確保したり、密かな“情報源”の意見を取り入れたりして成約にこぎつけた。

 「有利だと思うが、多くのベンダーに声を掛けているようだ。気は抜けない」。アビーム コンサルティングの金融統括事業部シニアマネージャーの浅野正洋は気を引き締めた。2007年2月のことだ。

 アビームは今回のコールセンターシステム商談が始まる前から、三井住友海上メットライフ生命保険と付き合いがあった。2006年5~9月、アビームは三井住友メットライフに対して情報化戦略の立案を支援していたのだ。

 こうした経緯もあり、「ほかのベンダーよりもシステム部門とのパイプは太い」とアビームの浅野は自信を持っていた。情報化戦略の立案を手伝っていたため、アビームはコールセンターシステムの必要性も知っていた。そうなると今回の商談を獲得できて当然と思えるが、そうではなかった。

 コールセンターシステム構築の予算を握るのは、「お客様サポート部」などの利用部門である。システム部門との関係が良好であっても、利用部門に評価されなければ受注はできない状況だ。「戦略の立案はコンサルティング会社でもいいが、開発は既に付き合いのあるインテグレータに任せた方が得策なのではないか」。浅野はこうした冷たい視線を感じ取り、万全の体制で当たることを決意した。

ベンダー7社にRFPを提出

 三井住友メットライフは2001年9月に設立された比較的若い会社だ。当時、本業に欠かせない契約管理システムは既に整備していたが、コールセンターシステムの構築はまだ手付かずだった。

 同社が手掛ける変額個人年金保険の契約数は年間10%以上のペースで増加しており、担当者の業務の負荷が重くなっていた。顧客や代理店からの商品・サービスに関する問い合わせへの対応業務を紙べースで進めていたため、処理に時間がかかるうえ、適切な回答ができないなどのミスが目に付くようになっていた。そのため利用部門では、契約内容や苦情、問い合わせ履歴などのデータを即座に参照できるような仕組みを早急に整える必要性が叫ばれていた。

 そこで三井住友メットライフは2006年10月に、コールセンターシステム構築の検討を開始。親会社の承認を得るなどの手続きを経て、2007年1月に新システム構築プロジェクトを立ち上げ、RFP(提案依頼書)を作成した()。

表● 三井住友海上メットライフ生命保険がコールセンターシステムの構築をアビーム コンサルティングに発注するまでの経緯
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表● 三井住友海上メットライフ生命保険がコールセンターシステムの構築をアビーム コンサルティングに発注するまでの経緯

 RFPの作成は、三井住友メットライフでIT推進部企画グループ次長の松本一材が担当。現行業務の問題点や新システム構築の狙い、機能要件などをA4用紙50ページでまとめた。松本は外資系大手コンサルティング会社の出身。システム開発案件のRFPを書くことに慣れていた。

 三井住友メットライフは2007年2月、自社や親会社と付き合いのあるITベンダー7社にRFPを提出した。そのうち2社はコンペを辞退。もう2社から「開発要員の確保が難しい」との回答が来たため、三井住友メットライフは3月上旬、委託先候補を大手メーカー系SIerの2社とアビームに絞った。