LTEは信号の伝送方式もHSPAとは異なる。CDMA方式を使うHSPAに対して,LTEではモバイルWiMAXなどと同じ伝送方式であるOFDMA(orthogonal frequency division multiple access)方式を採用した。OFDMAの特徴は,周波数と時間によってユーザーを「多重」できる点。符号化によってユーザーを多重するHSPAと比べて(データ・トラフィックは時間によって多重可能),特に広帯域を利用する場合,複数ユーザーのトラフィックを効率よく処理できる(図1)。
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図1●効率的に帯域を活用できるLTEの伝送方式「OFDMA」 周波数と時間によってスケジューリングし,複数ユーザーを多重して伝送できる。広帯域を扱う際にCDMA方式を使うHSPAと比べて,効率的に帯域を扱える。マルチパスの干渉に強く,高速通信に向く特性も持つ。 [画像のクリックで拡大表示] |
ただ伝送方式の変更によって,HSPAと帯域を共用できなくなっている。OFDMAの本質的なメリットは,「広帯域を利用する場合もスケーラブルに対応でき,CDMAと比べて干渉の除去がしやすい」(NEC モバイルRAN事業部の近藤誠司統括マネージャー)点にあると言える。
最大速度は端末のカテゴリーでも変わる
LTEの最高速度は,基地局設備の技術に加え,利用する端末の「カテゴリー」によっても変わってくる。カテゴリーとは端末が実装する技術と伝送速度を組み合わせた基準。HSDPAでも同じようなカテゴリーを用意していた。
LTEでは五つのカテゴリーを用意し,カテゴリー1はMIMOをサポートせず,伝送速度は下り最大10Mビット/秒,カテゴリー2では2×2MIMOをサポートし,下り最大50Mビット/秒となっている(表1)。基地局側が100Mビット/秒超の伝送速度をサポートしていても,カテゴリー2端末では最大50Mビット/秒に制限されることになる。なおNTTドコモは,カテゴリー2端末から開始する計画だ。
表1●LTEでは5種類の端末カテゴリーを定義 |
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フラットなコアの機器構成が寄与
LTEではコア・ネットワークのアーキテクチャを,既存のHSPAと比べて大幅にシンプル化している。機器間の接続手順も簡略化したため,既存のHSPAのネットワークと比べて大幅に遅延を抑えられる(図2)。LTEが満たす要求条件は,伝送遅延が片側5ミリ秒以内,制御遅延は100ミリ秒以内となっている。
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図2●低遅延を実現するフラットなコア・ネットワーク LTEのコア・ネットワークはオールIPで構成し,構造もHSPAと比べて大幅にシンプル化。低遅延を実現する。3GPPではSAE(system architecture evolution)という名称で標準化されている。 [画像のクリックで拡大表示] |
LTEのコア・ネットワークはSAE(system architecture evolution)と呼ばれており,オールIPのパケット交換網のみで構成する。音声もVoIPで伝送する。「eNodeB」という基地局からIPネットワークを経由し,モバイル・マネージメント装置(MME)とパケット交換機(S-GW)に接続するだけのフラットな構造となっている。
これに対してHSPAのコア・ネットワークは,音声通信用の回線交換網とパケット通信用のパケット交換網に分かれている。パケット交換網は,基地局を無線ネットワーク制御装置(RNC)で束ね,さらに加入者パケット交換機(SGSN)と中継パケット交換機(GGSN)を経由する。「多くの機器をまたぐ構造になっているため,遅延が大きくなっていた」と富士通 モバイルシステム事業本部の久米富幸本部長代理(DoCoMoビジネス)担当は語る。シンプルな構成による,設備コストの低減も見込める。