LTE導入に向けた取り組みを進める携帯電話事業者だが,各社とも共通の悩みを抱えている。100Mビット/秒超を実現するために必要となる10M~20MHz幅の周波数帯を,いかにして確保するのか──。この周波数帯確保に向けた“前哨戦”が始まった。

将来的には700MHz帯も候補に

 LTEは規格上3Gに分類される。そのため事業者に割り当てられた3G用周波数をLTE用にも利用できる。しかしLTEはW-CDMAやHSDPAとは異なる伝送技術を採用しており,同じ帯域でLTEと既存のW-CDMAやHSDPAのシステムを共用できない。LTE用の帯域が別途必要となるのだ。

 既存の3G用周波数からLTE用の帯域を捻出すると,その分だけ3Gの帯域幅が減り,既存ユーザーがつながりにくくなるといった影響が出る。現在各社が3Gサービスをメインに展開する2GHz帯(イー・モバイルは1.7GHz帯)は,NTTドコモを除けば片方向20MHz幅の帯域しか持っていない(図1)。NTTドコモにしても5000万以上のユーザーを抱えるため,LTE用に周波数帯を別途空ける作業は並大抵のことではない。

図1●LTE用の周波数確保が焦点に
図1●LTE用の周波数確保が焦点に
各社の帯域の割り当て状況は本誌調べ。LTEで100Mビット/秒超を実現するために必要な片側10M〜20MHz幅の帯域確保することは難しい。周波数の新規割り当てがLTE導入のポイントになる。
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 そんな中,総務省は2008年4月から3.9G商用化に向けた議論を開始し,2010年3月以降に空く予定の1.5GHz帯をLTEで活用する考えを見せている。1.5GHz帯は現在第2世代携帯電話用に割り当てられている周波数帯である。NTTドコモやソフトバンクモバイル,イー・モバイル,KDDIの各社はそれぞれ温度差があるものの,いずれも獲得を目指す姿勢を見せる。1.5GHz帯を巡る争奪戦が始まる様相だ。

 将来的には,現在アナログテレビ放送が利用中で2012年以降に携帯電話などの用途向けに割り当てられる予定の700MHzおよび900MHz帯の検討が始まると見られる。これらの周波数帯をLTEの“本命”周波数と見る関係者は多いが,今回は時期尚早として総務省の議論の対象には含まれていない。どの時期に10M~20MHz幅のまとまった帯域が用意されるのか。LTE導入に向けた各社の戦略は,この点に左右される。

一気にLTEにステップアップするドコモ

 もっとも各事業者のLTE導入に向けた基本的な考えには違いがある。NTTドコモがHSDPAからLTEに一気にステップアップするのに対して,ソフトバンクモバイルとイー・モバイルは,LTEの前にHSDPAを高速化した「HSPA Evolution」の導入を検討している点だ。

 NTTドコモは「ある程度大きなステップで移行した方が投資効果が高い」(NTTドコモの尾上部長)と,一気にLTE導入を進める理由を説明する。同社はLTEの導入に必要なMIMOの準備も既に完了しているという。「3Gの基地局には送信ダイバーシティ技術を導入済み。信号を入れ替えるだけで2×2MIMOを構成できる」(同)。実際同社は2×2MIMOのLTEシステムから展開を始める計画だ。

 LTEを選択する姿勢を見せるKDDIも,LTEに一気にステップアップすると見られる。モバイルネットワーク開発本部の湯本敏彦本部長は,5月上旬に開催されたシンポジウムで,3.9Gシステムの導入シナリオ案として,既存のCDMA 2000 1X/EV-DOに重ね合わせる形で3.9Gシステムを投入する考えを見せている。

 一方のソフトバンクモバイルとイー・モバイルは,「将来的にはLTEを目指すが,HSPA Evolutionも検討中」(ソフトバンクモバイルの宮川CTO),「帯域の確保次第で,LTEもHSPA Evolutionも導入したい」(イー・モバイルの安部基成執行役員副社長)とする。この2社は比較的新しい基地局を導入しており「HSPA Evolutionには大きな変更なしに移行できる」(イー・モバイル安部副社長)点が影響している。

 ソフトバンクモバイルの宮川CTOは「製品が成熟していない2010年の段階で,LTEを無理に進めようとは思わない」と語る。まずは既存環境から移行しやすいHSPA Evolutionを展開し,LTE製品が成熟してきた段階で本格的にLTE導入を進めたい考えを示している。