2010年の実用化を目指し,ベンダーや携帯電話事業者によるLTEの開発や実証実験が本格化している。2008年4月には,NTTドコモや日本エリクソン,フィンランドのノキアシーメンスネットワークスが日本国内でLTEのデモを公開した。これらの最新デモから,LTEの実力やLTEがもたらす新たなモバイルのサービス像が見えてきた。

モバイルで240Mビット/秒を実現

 「Super 3G」という名称でLTEの開発を進めているNTTドコモ。同社は4月に,これまで非公開で進めてきた横須賀地区でのLTE実証実験を外部に公開した。LTEの受信機を備えたデモ車両を使って,移動しながら屋外で下り240Mビット/秒超という実効速度を記録。既存の3Gとはケタ違いの実力を見せつけた(図1)。

図1●240Mビット/秒超の速度を記録したNTTドコモのLTE実証実験
図1●240Mビット/秒超の速度を記録したNTTドコモのLTE実証実験
モバイル環境でFTTH並みの高速通信を実現する能力と,低遅延による新たなサービス像の一端を見せた。
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 同社が実験で使った周波数帯は1.7GHz帯。20MHzの帯域幅を使い,4本の送受信アンテナによるMIMO(multiple-input multiple-output)のシステムを利用した。このシステムの理論上の最大伝送速度は約300Mビット/秒となる。

 実効速度は,時速約30kmで走行しながら最大で240Mビット/秒超を記録。建物の陰などに入った際には数十Mビット/秒程度に実効速度が落ちたものの,ハイビジョン映像を6本同時に受信(合計約80Mビット/秒)していても映像が乱れることがほとんどなかった。モバイル向けの高精細映像の配信サービスや,大容量データの送受信サービスなどが実現できそうだ。

 ADSLからFTTHへ切り替えた多くの人が体験するように,体感速度の大幅な向上も期待できる。

ネットワークとサービスが一体に

 LTEのもう一つの特徴である低遅延性を生かしたデモも見られた。NTTドコモはLTEのネットワークを介して対戦型オンライン・ゲームを操作するデモを実施。コントローラを通した操作が即座に画面に反映され,相手との対戦もローカルのゲーム機で行っているように違和感なく操作できる様子を見せた。

 実際にpingコマンドを使った遅延時間の測定では,サーバーと端末間の往復で11ミリ秒程度の値を記録。数百から数十ミリ秒程度の遅延が生じると言われる現在の3Gシステムとの違いを証明した。

 低遅延が有効なサービスとしてはオンライン・ゲームのほか,画面転送型のシン・クライアントやAjaxを使い操作性を重視したWebアプリケーションなどが挙げられる。

 LTEの規格では,端末が待機している状態からネットワークへ接続するまでの時間を既存の3Gシステムより大幅に短縮している。「待機中でも端末とネットワーク・サービスがつながっているかのような状態を作り出せる」(NEC モバイルネットワーク事業本部の宮原景一主席技師長)という。

宅内配線が不要で家電にも向く

写真1●エリクソンが公開した小型LTE端末
写真1●エリクソンが公開した小型LTE端末
パソコンなどに接続できるLTEのモデム機能を持った弁当箱大の端末だ。

 各社のデモでは将来の端末像も示していた。NTTドコモのデモにおける端末は,19インチラックに入った大型なきょう体だったが,既に端末の小型化は進んでいる。例えば日本エリクソンが公開したデモでは,「Berta」(ベルタ)と名付けた弁当箱大の小型LTE端末の実稼働機を展示(写真1)。LTE端末が実用化の一歩手前まで来ていることをアピールした。

 Bertaは,携帯端末ベンダー向けに販売するプラットフォームとして同社が開発を進めている。下り最大25Mビット/秒の機能を持ち,実効速度は下りで約22Mビット/秒を記録していた。デモでは端末をUSB経由でパソコンに接続し,ハイビジョン映像をストリーミングで受信する様子なども見せた。なおハードウエアの能力としては,下り最大50Mビット/秒,上り最大25Mビット/秒をサポートしており,ソフトウエアの更新によって機能を向上できる。

 日本エリクソンによると,現在の機器を改良した第2世代機を主要ベンダーや事業者のフィールド・テストに使う計画。2009年初頭には最初のチップセット・サンプルを出荷し,2009年第2四半期に商用プラットフォームを提供する予定という。

 日本エリクソンのフレドリック・アラタロ社長は「LTEの通信機能は,通常の携帯電話はもちろん,カメラやSTB(セットトップ・ボックス),テレビなど,様々な家電機器に入るだろう」と語る。STBやテレビにLTEの通信モジュールを組み込んでおけば,機器を購入してすぐにIPTVサービスなどが利用可能になる。現在のIPTVサービスは,たとえFTTHが家庭内に引き込まれていても,テレビを設置してあるリビング・ルームまでの宅内配線がハードルとなり利用が進んでいない。面倒なLAN配線を省き,携帯網から直接機器に映像を配信するサービスが期待できる。

設備投資コストは下げられる

 LTEの導入が始まる2010年度以降は,携帯電話の加入者数の伸びが今以上に鈍化していると予想できる。加入者数の伸びが右肩上がりだった3Gサービスの開始時とは異なり,携帯電話事業者は設備投資に多額の費用を割けない。

 機器ベンダーもこうした要請に応え,LTEの製品に対して投資コストを抑える工夫を施している。例えばノキアシーメンスネットワークスのデモでは,ソフトウエアの更新によって,W-CDMAからLTE対応に変更できる基地局をアピールした(図2)。「事業者の設備投資コストを抑えられ,安価なオペレーションを実現できる」(ノキアシーメンスネットワークスでLTE無線部門の責任者を務めるマティアス・レイス氏)と主張する。

図2●設備投資コストを抑えたLTE展開が可能というノキアシーメンスネットワークスのデモ
図2●設備投資コストを抑えたLTE展開が可能というノキアシーメンスネットワークスのデモ
ソフトウエアの更新によってW-CDMAからLTE対応にできる基地局製品を見せた。これによって投資コストを抑えられるという。
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 この基地局製品は2008年第3四半期から出荷を開始し,2010年にLTEへのアップデートを可能にする予定。なお同様のコンセプトの製品はエリクソンなど他のベンダーも準備中だ。

 ノキアシーメンスネットワークス日本法人の小津泰史代表取締役最高経営責任者は「携帯電話事業者にとってLTEは,周波数当たりのビット単価を下げ,一つの基地局に収容できるユーザーも増やせるというメリットがある」と語る。300Mビット/秒超という最大伝送速度が目立つが,LTEは無線の容量を増やし,膨れ上がるデータ・トラフィックを効率的に処理できる技術とも言える。将来のトラフィックを支える技術としても,携帯電話事業者はLTEに注目している。