今回は,前回説明した4種類の工程成果物のうちの一つ「システム化業務フロー」の書き方のコツを紹介しましょう(図1)。

図1●受発注業務の流れを表すシステム化業務フロー
図1●受発注業務の流れを表すシステム化業務フロー

 前回紹介した「システム化業務一覧」は,必要な「システム化業務」(システム化される業務)を洗い出すために有用な成果物です。しかし,個々のシステム化業務が列記されているだけなので,それらがどのような順番で動作するのかや,人手で実施する作業がどんなタイミングで発生するのかは,発注者(ユーザー企業)には分かりません。

 そこで必要になるのが,「システム化業務」を実行する順番を表した「システム化業務フロー」です。「システム化業務フロー」により,発注者は,現在自分たちが行なっている業務がシステムを導入することでどれくらい効率化されるかを把握できます。

大きな流れを記述した図面を作成する

 図2に,受発注業務の流れを表現したシステム化業務フローの記述例を示します。システム化業務フローの構成要素の図記号には,数通りの書き方のパターンがあります。図3にその一つを示します。システム化業務フローでは,こうした図記号を使って,部門などの役割別に区画を分けてシステム化業務の流れを表します。

図2●受発注業務の流れを表すシステム化業務フロー
図2●受発注業務の流れを表すシステム化業務フロー

図3●システム化業務フローの構成要素
図3●システム化業務フローの構成要素

 このシステム化業務フローを作成する際にぜひ適用してほしいコツは,2つあります。

 1つは,詳細なシステム化業務フローとは別に,全体の大きな流れを記述したシステム化業務フローを作成することです(図4)。

図4●システム化業務フローの大きな流れを記述する
図4●システム化業務フローの大きな流れを記述する [画像のクリックで拡大表示]

 図4のような,システム化業務フローの詳細を隠蔽した図面を見ることで,発注者は処理の流れの全体を把握できるため,業務の流れに沿ってシステム化業務の流れを理解でき,何が効率化されるのかを正しく把握できます。

 これは,システム化業務フローを分割/階層化することにほかなりません。ただし,注意する点があります。この階層化は,前回紹介した「システム化業務一覧」の階層構造(大機能,中機能など)に対応するわけではない---ということです。

 システム化業務一覧における階層化の目的は,システム化業務の漏れや重複・余剰がないようにすることです。このため,例えばシステム化業務一覧の「中機能」の「発注書作成」と「発注書再利用」には,同じ「小機能」が含まれてはいけません(前回参照)。

 これに対しシステム化業務フローでは,全体の大きな流れを表した図面に含まれるシステム化業務のそれぞれを詳細化して作成した異なるシステム化業務フロー上で,同じ機能が共通に現れても構いません。例えば,「受注情報確認」と「入荷確認」のそれぞれを詳細化したシステム化業務フローに「各種日時更新」のような機能が共通に現れてもいいわけです。

 もし,こうした全体を俯瞰するようなシステム化業務フローを作らなければどうなるでしょうか。その場合,発注者は,システムの実行の流れを逐一表現した詳細なシステム化業務フローをレビューすることになりますが,詳細なシステム化業務フローを見ても,発注者には全体の流れが俯瞰できません。これでは,業務の流れに対応したシステム全体の動きを把握することは困難です。その結果,業務の実行順序の誤りや自動化すべき処理の実装漏れなどが,後工程で発覚する可能性が高くなります。