◆今回の注目NEWS◆

「地方公会計の整備促進に関するワーキンググループ」第1回(総務省、6月5日)
「民間のコスト削減手法に関する研究会」第1回(総務省、6月3日)

【ニュースの概要】政府では「財政の構造を的確に把握していこう」「国民に負担を強いる以上、行政側でも歳出削減の努力をしよう」という趣旨で、様々な取り組みを開始した。


◆このNEWSのツボ◆

 消費税引き上げ問題を巡っての議論が喧しくなっている。国や地方の財政事情が著しく逼迫する中で、本格的な高齢化社会を迎え、年金をはじめとする「必須支出」が急増していくことがその背景にある。

 こうした状況を背景に、「財政の構造を的確に把握していこう」「国民に負担を強いる以上、行政側でも歳出削減の努力をしよう」ということで、様々な取り組みが開始されている。国では「コスト削減に対する研究会」が開始されたし、地方では大阪府で橋下知事が職員人件費引き下げを巡って労働組合と激しく対立をしている。

 大阪府の議論の反響を見ると、全体としては橋下知事に対して好意的な論調が多いように見える。やはり「人に負担を強いるなら、先ず、自分達も血を流せ」という感情が底流にあるからだろう。同じような趣旨で、国が「民間並みのコスト削減」を進めていくのは悪いことではない。ただ、実は、こうした「コスト削減=財政改革」でないことにも注意が必要であろう。

 地方自治体の公会計改革については、平成19年秋の総務省報告書を受けて、一部の自治体では既に先進的な取り組みが進んでいる。来年の春には、かなりの数の自治体で、「資産負債バランスも含めた地方の財政状況」が明らかになってくると考えられる。まだ進行中ではあるが、こうした先進的な自治体での取り組みを見ると、いわゆる「行政コスト(民間企業で言えば「販売管理費」に相当するものと言えば良いだろうか)」の負担が自治体財政を大きく圧迫しているわけではないようだ。

 自治体の財政逼迫の大きな理由になっているのは、やはり公共事業負担などの資産形成に伴う支出、年金・保険などの社会保障支出、教育関係支出など、自治体にとっての「必須支出」の影響が大きい。その意味で、厳密・正確な公会計の整備を踏まえて、資産売却や不要不急な資産形成の見直しを行うことの意味は大きいし、社会保障や教育関係経費については、制度的な見直しが不可欠と言える。

 コスト削減の意味を軽んじるつもりはないが、基本的には、これは「対症療法」であり、効果にも限度がある。財政の構造改革を行っていくには、やはり、公共事業や社会保障、教育等も含めた「根治療法」が必要である。

 地方では公会計改革が進みつつあるが、実は、国のレベルでの取り組みは、進んでいない。根治のためには、地方だけでなく国も含めて、正確なカルテが必要である。「コスト削減」という対症療法を進めつつ、目先の受けの良い対策に流れない、正確なカルテに基づく根本的な対策の実施が望まれるところである。

安延氏写真

安延申(やすのべ・しん)

通商産業省(現 経済産業省)に勤務後、コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO、スタンフォード日本センター理事など、政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。